文科省との戦いに勝利した俺は、新たに加わった仲間をゲットして、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が入る、霞が関東急ビルへ向かった。

そういえば、政府機能の地方移転なんて話しがあるけど、こんな近くにガッツリでっかいビル群作って、便利かつ快適に暮らしているのに、なんでわざわざ地方移転なんて不便なことをしようと思うのか、そんなこと本気でするつもりがあるわけないだろ、ちょっと考えたら分かることなのに、頭使えよ、騙されんな……とか、思ったりなんかしてみる。

国会議事堂前を通る時もそうだけど、この辺りの土地柄というか警備体制というか、独特の空気には、圧迫感がある。

ここが頂点、俺たちがサミットだ、どうだ、すごいだろ、まいったかみたいな。

このエリアだけが、日本の最高級、一流品だけを集めて作られているような、そんな錯覚に陥る。

プライドと権威の街、全くの俺の妄想だって、頭では分かってるけど。

俺の後ろから、綺麗に隊列を組んでついてくる、新たにパーティーに加わった旅の仲間を振り返った。

「で、作戦を聞こうじゃないか、『ガンガンいこうぜ』? それとも『バッチリがんばれ』? 『おれにまかせろ』?」

「何の話しだ。やっぱり俺は、霞が関東急ビルまでの道案内か」

俺は、この茶髪の好青年を見上げた。

「大体、宇宙政策委員会ってなんだよ、宇宙人でも襲ってくるのか、それとも移住計画か、俺の人生に宇宙開発なんて、なんの関係があるんだ」

「お前、今回、なんで宇宙開発局に乗り込んで行くのか、その理由を聞いてないのか?」

「どーせ研究センターがなんかヘマをやらかしたんだろ、それでうちに泣きついてきて、さらに上の偉いさん委員会に泣きついて誤魔化そうって魂胆だろ、そんなのミエミエだ」

彼は長く伸びた前髪を、後ろにかき上げる。

「ま、俺を頼ってくるくらいなんだから、よほど困ってるんだろうけどな。何をやらかした。どうでもいいけど、俺に迷惑をかけるなよ」

 
あぁ、マジか、本気か。

センター長のお友達文科省役人は、本当に事態を把握しているんだろうか。

「あー、これはまだ公式発表されてない、非公開の守秘義務規範にあたる問題なんだけど」

「あ、そういうの、面倒くさいからパスね」

「は?」

「とりあえず、お前が向こうに説明して。俺はただ一緒になって、『すいませんでした』って、頭だけ下げとくから。ヘタな説明は自分の墓穴掘るからしないよ。全部シャベリはあんたが受け持ってね」

彼は真顔で俺に向かってしゃべり続ける。

「『おまえに任せた』モードだ。さっき自分でも言ってただろ。『おれにまかせろ』って。じゃ、よろしくたのんだよ。謝罪の伴走者は得意だ、しっかり同伴し、同調する。ただし、余計な口はきかない」

「お前、上訴の内容に興味ないのか?」

「ないね」

その潔さは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……。

「俺は頭下げてりゃいいんだろ? 後のことは、知らねーよ、自分たちで何とかしろ」

「お前は俺をサポートするために、派遣されたんじゃないのか」

そう言われた彼は、豪快に笑った。

「あはははは、そんなわけないだろう、なんでこの俺がそんなことをするんだ。俺は あくまでお前の添え物だ、サクラだ、体裁を整えるためだけのモブ要員だ。俺に何 かを期待したり、要求とか考えるなよ!」

俺はスマホを取りだした。

センターに電話をかける、香奈先輩が出た。

「チェンジ」

「は?」

「チェンジで」

「だから、何がだよ」

「文科省の役人、もう少しハイスペックなキャラをゲットしたいんで、『逃がす』を選択して、チェンジでお願いします」

「じゃあ、お前がそうやって文部科学省、科学技術学術審議会、研究計画評価分科  会、宇宙開発利用、航空科学技術委員たちに説明しろ、さっきのセリフ、一言一  句、間違えるんじゃねーぞ」

「ちょ、それだけで済ませて、電話切らないでくださいよ。俺は今、人類の未来を背 負って立ち上がった、たった一人のヒーローなんですよ? とはいえ、やっぱどん なパーティーでも仲間ってもんが……」

「チェンジ」

その一言で、電話は切れた。

どいつもこいつも、役立たずばっかりだ。

「おい、なにやってんだよ、さっさと謝りにいって、チャッチャと済まそうぜ」

彼は、先に立って歩き出す。

「こういう面倒は、とにかく頭を下げときゃいいんだよ」

どうして政府主要機関って、こんな近所に固まってるんだろう。

宇宙開発局の入った民間ビルは、もう目の前だ。

一級品を気取ってるから、ちょっと頭を冷やして話し合うための、ファミレスやコーヒーショップすら、このあたりには存在していない。

大体近すぎる。歩いて3分、道を渡れば、すぐ目の前だ。

「ここがそのビルだ」

なんで政府主要機関は移転してないんだろう、国家の大切な危機管理だろ、ちゃんと分散させとけよ。

「いくぞ。宇宙開発局の人には、事前に連絡してあるんだろうな」

「してるわけないじゃないか、俺は、文科省からぶっ潰すつもりだった」

「宇宙センターが、内閣府の管轄って、知らなかった?」

「そんなこと、普段意識しながら暮らしてないだろ」

彼は、へっと、鼻にかけたような、変な笑い方をした。

「これだから、小物はいつまでたっても小物のままなんだよ。ちゃんと自分の上を見 て行動しろよ」

俺は大物だ。それに一切の間違いはない。

小物はお前の方だ。

「ま、実るほど、頭を垂れる稲穂かなって、言うだろ? これからアポ無し謝罪の技術ってもんを、見せてやるよ」

彼の自信は、一体どこからくるんだろう。

これほど強力な後ろ向き助っ人は初めてだ。

そんなことを話してるうちに、あっという間に目的地にたどり着く。

内閣府の所属とはいえ、ここは内閣府庁舎ビルではない。民間のビルに入る、国立研究開発法人だ。

文科省の人間がやってきたとなれば、同伴者もあっさり入管出来る。

肩書きって最強。

「俺の役目はここまでだ。後はお前がやれ」

言われるがままドアをノックする。

俺には、このノックされているドアが、一体どこに続くドアなのかも全く把握していない。

扉が開いた。

「すいませんでした!」

開門一番、宮下が大声で頭を下げる。

90度。俺も一緒に右へならえ。

てか、俺は何かの謝罪に来たわけではないのだが。

いきなり頭を下げるアポ無し文科省の人間に、相手は慌てふためいている。

彼の肘が、俺の脇をつついた。

それを合図に、頭を上げて、まっすぐ前を見る。

本番は、ここからだ。