夜ごと、僕はひなせを抱く。
 自分のことが不安で心許ない彼女を、安らかに狂わせる為に。

「ひなせ・・・。僕に見せて、・・・全部」

 さっきまで僕にさんざん、胸を吸われ弄られ、透明な蜜を溢れさせているそこを自分から開かせてから、僕は顔をうずめる。
 舌でなぞり、少しずつこじ開けて差し入れを繰り返す。滴って零れるひなせの精を、一筋も漏らさないよう舐め取っては飲み下し。

 僕の全細胞に行き渡って、それは命の源になる。

「あ、あ・・・ッ、ゆい、ゆいっ・・・っ」
 
 与えられる刺激で恍惚に浮かされるひなせの表情が、僕の嗜虐心を誘う。
 どこをどうされるのが一番好きか知っていて、まだあげない。
 今度はやんわりとひなせの両頬を掴まえ、唇を割って舌をねじこむ。
 角度を変えては、より深く。

 口を離すと。うっとりと妖しい色に瞳を潤ませ、僕の首に手を回して『まだ』と強請る。

 もっと。もっと、ひなせを壊したい。あられも無く欲しがらせて啼かせて、僕に狂わせて。
 そうしたら・・・ひなせは何も考えなくていい。
 君が描いてた、ありきたりの人生。恋のひとつさえ叶わなくなったと、笑いながら泣いた君。
 ひとの精を喰らって生きる現実とが、せめぎ合ってひなせを辛くするから。



 それでも、ひとの世界にまだ未練のあるひなせは、朝になると会社へと出かけてゆく。
 ときどき夜に男と逢ってから戻っても、僕は変わらない。
 ベッドにひなせを沈め、僕の全部で上書きをする。

「・・・階堂倭人は、気持ち良かった?」

 煽るように、わざと。

「・・・僕がいらなくなったら、いつでも言って。ひなせ」

「いや・・。ずっといて・・・由伊」

 すがるような眼差しで見上げるひなせの髪に、額に、幾度もキスを落とし。



 心の中で、どこか願ってた。
 ひなせがあの男の命を過って奪い尽くす。・・・そんな幕引きを。