待ち合わせ場所は、駅の反対口のロータリーを少し出たところの広めの路地裏。会社のある南口方面と違ってマンションが多く、わりと人目を誤魔化せた。

八時を少し回り、目の前に白のアウディが停まった。倭人がウインドゥを下げて、待たせたね、と笑う。

「ひなせ、おなか空いてる?なにか食べた?」

あたしが隣のシートに体を沈めるとすぐに車を発進させ、視線を傾げてくる。

「ミスドで軽く」

「じゃあルームサービスでいいか」

通常、社員は六時が定時。役員でも八時退社が言い渡されていて、経費節減を徹底しているのだと前に倭人から聞いた。おかげさまで、二時間ほど適当に時間を潰せば、こうして彼に会える日もあるということなのだ。

赤信号で車を停めるたび、倭人はあたしを引き寄せてキスを落とす。ヘッドライトやイルミネーションで明るく浮かび上がる車内。

「・・・だれかに見られちゃう」

「大丈夫だよ」

クスリと意味深な横顔。端整な顔立ちで身長もある。いつもセンスの良いスーツを着こなしていて、当たりも柔らかい。おまけに社長の親族で出世頭。これで独身だったら、社内でさぞや熾烈な争奪戦が繰り広げられたんだろうと思う。

あたしには倭人を独占したい欲は全くない。だから倭人にもちょうどいい。あたしがいなくなっても困らないひとが、ちょうどいい。

「ひなせ、シャワーあびよう」

いつものシティホテルに部屋を取り、ルームサービスで簡単に食事を済ませると、倭人は早速あたしをバスルームに連れ込んだ。バスタブに温めのお湯を半分ほど張り、背中から抱かれるように浸かりながら、倭人の指があたしの躰を這い回る。

ひとつに繋がって、ベッドでもお互いを呑み込んで、ひたすら。