「瀬戸さん。この書類、今日中に頼めるかな」
「はい、分かりました。専務」
あれから、あたし達はただの上司と部下の関係に戻った。
もう彼があたしをひなせと呼ぶことも、あたしが彼を下の名で呼ぶこともない。
『倭人・・・お願いがあるの。あたしのこと、もう忘れて?』
あの時。あたしは由伊をそばに呼んでいた。
もし。彼が諦めてくれなかったら、その時は忘れてもらおうと決めて。
由伊に触れられて、あたしへの感情を吸い取られた倭人は、まるで憑きものが落ちたかのようにあっさりと別れを受け容れた。
次の日からは本当に何も無かったように。
ひと欠片も残っていないように、あたしを見る彼の視線に熱がこもることは二度となかった。
「ほんとうに良かったの? ひなせ・・・」
あたしを優しく抱き寄せて由伊が問う。
「・・・いいの。あたしには由伊がいるから」
少し強がりなあたしを、ぎゅっと抱きしめてキスを落とす。
いつもより甘えて、あたしは由伊にねだる。
「・・・お腹すいちゃった、・・・おにいちゃん」
「全部、ひなせのだよ。・・・僕は」
人魚の姫や月の姫。実らない恋。
あたしも同じ?
あたしは違う?
手に入らないものなら。手を伸ばしちゃいけないの。
「はい、分かりました。専務」
あれから、あたし達はただの上司と部下の関係に戻った。
もう彼があたしをひなせと呼ぶことも、あたしが彼を下の名で呼ぶこともない。
『倭人・・・お願いがあるの。あたしのこと、もう忘れて?』
あの時。あたしは由伊をそばに呼んでいた。
もし。彼が諦めてくれなかったら、その時は忘れてもらおうと決めて。
由伊に触れられて、あたしへの感情を吸い取られた倭人は、まるで憑きものが落ちたかのようにあっさりと別れを受け容れた。
次の日からは本当に何も無かったように。
ひと欠片も残っていないように、あたしを見る彼の視線に熱がこもることは二度となかった。
「ほんとうに良かったの? ひなせ・・・」
あたしを優しく抱き寄せて由伊が問う。
「・・・いいの。あたしには由伊がいるから」
少し強がりなあたしを、ぎゅっと抱きしめてキスを落とす。
いつもより甘えて、あたしは由伊にねだる。
「・・・お腹すいちゃった、・・・おにいちゃん」
「全部、ひなせのだよ。・・・僕は」
人魚の姫や月の姫。実らない恋。
あたしも同じ?
あたしは違う?
手に入らないものなら。手を伸ばしちゃいけないの。