「理由を聞かせてくれないか」

あのメッセージから二日後。彼は出張から戻ったその足であたしをいつもの待ち合わせ場所に呼び、車の助手席に今あたしはいる。

車通りの少ない公園の側道に車を停め、倭人はこっちをじっと見つめた。

「・・・急にどうした。俺が何かしたか?」

あたしはそっと首を横に振る。可菜の話は、直接は関係ないことだから。

「倭人がどうこうとかはない、かな」

「俺じゃなくて、じゃあ・・・何?」

怒ってるとか不機嫌じゃなく、抱擁感を漂わせる静かな口調。

こういう大人なところが無月っぽいと思う。時々子供みたいなところは遊佐みたいで、なんでも自分で決める優柔不断さの無いところは支癸に似ていた。

そんな風に重ね合わせていたから惹かれてたのかも知れない。でもそれも今日でおしまい。もうあなたを殺さずにすむ。

あたしは僅かに視線を逸らし、しっかりと答える。

「・・・そろそろ潮時だと思って」

「潮時?」

「すっとこうしてる訳にもいかないし、・・・いろいろね」

「で、いきなり会わない、か?」

理由になっていない、と倭人の目が細まった。

「好きな男でも出来たって言われた方がまだマシだ」

「・・・っ」

小さく言葉を詰まらせる。彼の口許で自嘲気味に滲んだ薄い笑みがあたしの胸に刺さる。

彼のあたしに対する執着心なんて、たかが知れてると思ってたのに。そんな傷ついた顔するなんて、引き止められるなんて。

おかしいな。どうしてこんな最後の最後に『好き』だって言われた気がするんだろう。