「・・・ひなせ、そろそろ起きなさい。遅刻する」

額にキスを落とされた感触があって、あたしはまだ半分夢うつつのまま小さく身じろぎをした。少し低めの聴き心地のいい声。無月(むつき)の腕枕で眠っていたのだと、やっと思い出す。

昨日は。そうだ、あんまり桜が綺麗で、夜はみんなで縁側で花見をしていて。由伊(ゆい)がいなかったから、ずっと無月があたしを見ててくれたんだった。少し酔ってすぐ眠くなって、そのまま無月に抱かれてた。

由伊より言葉の支配が強い無月。虫も殺さないような綺麗な貌でそういう時だけ、あたしをがんじがらめにする。

『ひなせ・・・どうして欲しいか言わないとあげないよ』

命令通りにあたしは躰の真ん中を開く。あとはもう本能のまま。止められず、ひたすら無月を欲しがって。満たされるまで。

躰が重かった。眠気のせいだけじゃなく、泳ぎ疲れた後のような疲労感。やっぱり無月達は特別だから、あたしには精が濃すぎて。中和しないと毒になりそうな。

「・・・いま何時?・・・」

目をこすりながら、あたしは小さくあくびをした。

「6時42分。支葵(しき)に会社まで送らせるから、シャワー浴びなさい」

微笑んで先にベッドから抜け出す無月。

細く見えても、きちんと筋肉のついたしなやかな躯。がっしりした支癸と比べると『柔』の印象だけれど、けっこう底無し体力の持ち主だってあたしは知ってる。

「ひなせ、おいで」

「はーい」

奥のシャワールームから無月の声がして、あたしはようやく動きだす。  

今日も一日が始まる。とりあえず生きているから。