立ち上がった三門さんは少し行ってくるね、と席を外す。正直なところ、ひとりになるのは少し不安だったが、顔には出さずに頷いた。
 三門さんが出て行って、一緒についていってしまうのかと思っていた彼女は部屋に残った。私の座る前に腰を下ろすと、興味津々といった感じで目を輝かせて身を乗り出した。


 「麻ちゃんって言うんだよね? 私、渡辺(わたなべ)詩子(うたこ)。よろしくね」


 とても親しげに笑った詩子ちゃんに、肩の力がすっと抜ける。


 「うん、こっちこそよろしくね」

 「麻ちゃんは中学生?」

 「うん、中三」


 同じだ、と嬉しそうに声をあげた詩子ちゃんは、突然険しい顔をした。何事かと思ったら、「さっき嫌なこと言っちゃった。怒ってる?」と尋ねてくる。思い当たる節がなくて首を傾げる。


 「ほら、受験生には縁起が悪いでしょう?」


 そう言われて「あ」と思い出す。
 お母さんとの会話がちょっと不自然だったのは、そう言うことだったのか。

 笑いながら首を振ると、安心したように笑った詩子ちゃん。どうやら見た目はクールだけれど、中身はとても活発で元気な女の子らしい。