渡辺さんはよろしくねとにっこり笑った。


 「それで、これが頼まれてたお札です」


 三門さんが風呂敷を解いて丁寧に半紙に包まれていたお札を渡辺さんに手渡す。


 「わざわざありがとう。初穂料用意するから、中で待っててもらえるかしら」

 「次に参拝しに来てくださったときで構いませんよ」

 「そんなのダメダメ! ほら、詩子、三門さんと麻ちゃん案内して」


 それだけ言い残すと渡辺さんはいそいそと中へ消えていく。はあい、と唇を尖らせた彼女は「どうぞ」と私たちを中へ招く。三門さんを見上げると苦笑いで頷いていた。

 そして客間に通された私たちは、中へ入るなりそろって「うわあ」と感嘆の声をあげた。

 客間の奥に飾られていたのは、七段もある立派なひな人形だった。お内裏さまとお雛さまはもちろん、三人女官や五人囃子、随臣に仕丁までもが揃っている。どれも大切に扱われているものなのだと、黒光りしたお雛道具からよくわかった。