直ぐに「はあい」という返事が返ってきた。奥からどたどたと駆けてくる足音がする。しかしその音は途中でダン! と激しい音で途絶える。


 「ちょっと詩子、何やってるの。三門くん待ってね~」


 別の声がして直ぐに扉が開いた。眼鏡をかけた四十代くらいの女性が下駄を突っ掛けながら出てくる。


 「渡辺さん、こんにちは。さっきのはうたちゃん? 大丈夫?」

 「ああ、大丈夫大丈夫! そそっかしいだけだから」


 からからと笑った渡辺さんの肩を、誰かががしりと掴んだ。


 「ちょっとお母さん? 転ん……あっ、えっと、怪我した娘に対してひどいよ!」


 渡辺さんによく似たすらりとした子だ。高い鼻に少しきりっとした目で、黒縁の眼鏡が良く似合う。長い髪を高い位置でポニーテールにしていて、とても聡明そうな女の子だった。

 私と目が合うなり「うん?」と首を傾げる。


 「あ、えっと……三門さんの家でお世話になっている、中堂麻です」


 慌てて頭を下げる。僕の親戚なんだ、と三門さんが付け足した。