数分後、私と三門さんは堤防のそばを歩いていた。そう言えば三門さんとおもてら町を歩くのは初めてだな、なんて考えながら、とりとめのない話をした。


 「もう三月なんだね。この辺は盆地だから、四月の中旬くらいまで底冷えが続くんだよ」


 すこしげんなりした顔で言う。


 「三門さん、寒いの苦手なんですね」


 くすくすと笑うと、三門さんは恥ずかしそうに鼻をかいた。


 「こんな薄い衣装で過ごしてるけど、全然なれないんだ。それにほら、夏生まれは寒がりって言うし」

 「三門さん、夏生まれなんですか」

 「うん。八月二十四日」


 八月二十四日、夏休みの最中だ。今年は私もお祝いすることができるだろうか、とひそかに考える。もし受験に失敗しても、夏休みなら遊びに来ることはできるし、なんて少し弱気になっていると、いつの間にか目的地に着いていた。


 「ここだよ」


 そう言って指さした一軒家を見上げた。灰色の屋根と土壁でできた古民家で、なんだか懐かしい気持ちに駆られる。

 『渡辺』という表札を横目に、迷うことなく中へ足を進める三門さんを追いかける。三門さんは玄関の戸の前で「ごめんください」と声を張り上げた。