窓の外の誰かが悪態を吐く声が聞こえる。聞き覚えのある声と出てきた三門さんの名前に、恐怖はすっとなくなる。恐る恐る箪笥の陰から這い出て、窓の方を見る。
「くそー……麻のやつ、どこにいるんだよ」
もう一度聞こえたその声に、「あっ」と声をあげた。急いで窓に駆け寄って鍵を外す。勢いよく窓を開けると、外にいたそのひとは驚いたように私を見上げた。
「葵!」
「うおっ、びっくりした、脅かすなよ! いるんなら早く出て来いよな!」
「そ、それは私のセリフだよ! 突然窓が揺れるから、心臓が口から飛び出るかと思った」
まだばくばくと波打つ心臓を服の上から押さえつけ、何度か深く深呼吸をする。その間に窓をよじ登った葵は、私の部屋に侵入した。
乱れた着物の裾を叩き付けるようにして直した葵は、その場にどしんと腰を下ろす。
「麻も座れよ! お、この握り飯食ってもいいか?」
私の返事を聞く前に手を伸ばした葵。
「いいよ……」
私の部屋なんだけどな、と苦笑いを浮かべながら窓を閉めると、葵の前に座った。