「彩葉さま?」


名前を呼ばれた気がして重い瞼を持ち上げると、私の顔を覗き込んでいる絣模様の着物を纏った目がクリクリの少年がいた。


「あー、よかった。お目覚めになったんですね」
「あなたは?」
「私は白蓮さまにつかえております、勘介(かんすけ)と申します。白蓮さまー」


ごく簡単に自己紹介した彼は、障子を開けてすっ飛んでいってしまった。
白蓮さんを呼びに行ったようだ。


「ここ、どこ?」


白地に菖蒲の模様の入った浴衣を着せられて布団に寝かされていた私は、上半身を起こして二十畳ほどはある和室をぐるっと見回す。

見覚えがないはずなのに、なぜか遠い昔に来たことがあるような気がした。


そのうちドタドタと足音が近づいてきて、白蓮さんが姿を現した。

そういえば……黒爛に襲われて彼が助けてくれたんだ。

あのとき、小さな耳も出ていたような気がしたが、ふさふさの尻尾も耳も見当たらない。