「因様、暇なの?」
 三日連続やって来た因に向かって、ハクは呆れ眼で尋ねる。

「暇、と言えば暇。多忙、と言えば多忙かな?」
「忙しい人が、のんびりお茶なんて飲んでていいの?」
「朝宮茶? このお茶が美味しくて……三日と開けず飲みたくなるんだよね」
「でしたら、お茶屋に行ってお求めになられたらいかがでしょう?」

カイの言葉に因は、「ここで飲むから、尚、美味しいんだよ」と微笑む。

「相変わらず美人だね」
「美少年のハクに褒められてもあまり嬉しくないかな」

お茶の香りを楽しむように、ズズッと音を立て飲む因に、「でもね、因様が来ると、こっちは仕事にならないんだよ」とハクが眉を下げる。

「さようでございます」

カイも大きく頷き、「縁様が御簾のあちらから出て来られないのです」と弱ったように息を吐く。

「それは職務怠慢だな」
「そのとおりだよ。でも、因様にも原因の一片があると思うんだ、僕」

因が姿を現した翌日から閉じ籠もってしまった、とハクが言うと、因は盛大な溜息を吐いた。

「何でも俺のせいだ。やんなっちゃうなぁ」
「何でも? 他にも何か有ったということですか?」

結が尋ねると因は口を噤み、またお茶を飲み出した。あくまでも理由を述べないつもりらしい。

その時、沈静する空間にリーンと涼やかな鈴の音が響き渡った。

「拝殿にお客様だ」
「あっ、ハク!」

受付はハクの仕事だ。だが祈祷を行う縁は、岩屋に籠もった天照大御神のように、御簾の向こうに閉じ籠もったままだ。だから結はハクを止めようとした。しかし、彼は弾かれたように飛んで行ってしまった。