「梶だったかな? 彼の想いの詰まったおむすびだぁ」
「詰まっていませんよ」

ガブリと齧り付いた因に結は訂正の言葉を発した。

「御利益のおむすびとは違います」
「そうだよ。他人の想いが詰まったおむすびなんて……食べられたもんじゃないよ」

ハクの眉間に皺が寄る。

「何? そんなに不味いの?」
ハクが壊れた首振り人形のように首を振る。

「そんなに不味いんだぁ。何か逆に食べたいかも」

ふざけた調子の因に結は不快な気分になる。カイも同じ気分だったのだろう。「因様、おふざけが過ぎますよ」と注意する。

「ふざけてなんてないよ。ただ、俺は興味のあることに無関心ではいられないだけ」

悪びれず因が言うと、ハクがソッと挙手した。そして、「だったら、僕も訊いていい?」と尋ねる。

「どうして縁様はあんなに因様のことを怒ってるの? 裏切り者ってどういう意味?」

ナイス突っ込み、と結は心の中で拍手を送る。

「さぁ、どうしてだろう?」

だが、因は笑って誤魔化すと、話を逸らすように、「想いが詰まっていないから美味しい!」と言って、赤飯むすびをパクパク食べ出した。


 *


「カイも喧嘩の理由を知らないの?」
因が帰った後もハクはそれが気になるのか、カイに纏わり付いていた。

「――喩え知っていても、当事者がお話にならないのでしたら、お答えできかねます」

「カイって……執事の鏡だね」
「執事ではなく神使でございます」

ハクの嫌味をカイはワザと馬鹿丁寧に訂正する。

そんな二人を横目に見ながら結は思い出していた。
『明日も来るね』と帰っていった因の後ろ姿を……何だかとても淋しそうだった……と。