その横で縁はブスッと顔を歪ませたままだったが、それにはお構いなしに、「お初にお目にかかります」と男性が挨拶を始めた。

「わたくし、カイと申します。縁様の神使兼お目付役をしております。よしなにお頼み申し上げます」

丁寧すぎる物言いに、結は恐縮しつつ、つられて「こちらこそよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。

「結様は噂どおり礼儀正しい恋神様でございますね。しかしながら、神使に気遣(きづか)いは無用でございます」

眼鏡のブリッジ部分をクイッと上げながら、「それに比べて」と縁を見る。

「貴方様は大神様に(そむ)いてばかり……」
「カイが『自分の意見ははっきり述べろ』と教えたんじゃないか!」

縁の反論に眼鏡の奥の眼が鋭利に光る。

「意見と文句は似て非なるもの。全くの別物でございます。縁様のは単なるガキの我が(まま)でございます」
「ねぇ……そのお小言(こごと)、後でもいい?」

反論に出ようと縁が口を開きかけたが、一瞬早くハクが話に割り込んだ。

「僕、お腹が空いてクラクラするんだ。だから、結様のおむすびを食べてからじゃいけない?」

気弱なハクだが、基本、彼はマイペースだ。そんなハクに縁もカイも毒気を抜かれたのか、思わず顔を見合わせる。

「おむすび……?」
「そうでございました。恋神神社の名物でございましたね」

「ああ」と何か思い出したように縁も小さく頷いた。