「けど、売り言葉に買い言葉? 気付いたら『ああ、助けに行ってやるよ!』って怒鳴り返していたんだ。そしたら小町ちゃんが『約束ですよ』って指切りして……それでハッとした。死のうと思っていた俺に未来を与えてくれたって。で、死ぬ気が一気に失せた」

「約束を守らなければ針千本ですものね」と結が微笑みかけると、梶は「そういうこと」と言って笑い返した。

「それがきっかけだと思う……小町ちゃんのことを好きなったのは」
「本物ですね?」
「ああ、真実一路(しんじついちろ)の恋だ」
「了解致しました。ではしばらくお待ち下さい」
「巫女様、待っている間に、俺、配達を済ましてきていいかな?」

今回、こちらに赴いたのはやはり仕事だったようだが……。

「小梅さんの紹介でさぁ、新規の店なんだけど、挨拶も兼ねて来たんだ。得意先を増やさないとな」

まだまだ生活は大変なのかもしれない。だから……心の()り所となる小町ちゃんに会いたかったのかもしれない。結は何となくそう思った。

「ええ、どうぞ。何時頃、お戻りですか?」
「四時には」
「では、その時間にお待ちしております」

結はそう言って梶を見送った。


 *


「――勘が冴えているということかなぁ?」

結は独り()ちると流し横のステンレスの台を見遣(みや)りほくそ笑む。
そこに少し大きめのボールがあり、中には赤飯饅頭を作ろうと下準備しておいたもち米――それがほんのり小豆色に染まっていた。

「それにしても、梶さんとこの小豆は本当に粒揃いで綺麗だなぁ」

梶と結の出会いは小町を介してだった。
恋神神社の噂を聞き、梶が小町に案内を頼んだそうだ。そして、やって来た彼は、『本気の女性が現われたら、ご祈祷願います!』と、深々とお辞儀をした。

「でも……あの時すでに小町さんが好きだったんだ……」