自然災害は誰かの責任で起こるわけではない。だが、大切な人やものを失うと、罪悪感に(さいな)まれて自分を責めてしまうことがある。梶はその渦中(かちゅう)(おちい)ったようだ。

「そこから救ってくれたのが小町さんだったのですね?」
「そう。彼女の言葉は強烈だった」

梶の口元がフワリと綻ぶ。

「聞いてもいいですか? どんな言葉だったか」
「言ってもいいけど、引かないでくれよ」

そう言うと梶はフッと思い出し笑いを浮かべた。

「小町ちゃんはまず、俺に『卑怯者』と言ったんだ。そして、『円屋が不幸に見舞われても助けに来てくれないんですか!』と怒鳴った」

何となく小町なら言いかねないと結は苦笑する。

「滋賀県も北海道と同じで、自然災害の被害が少ない県だと言われているんだってな?」

結が頷くと梶は、「同類相哀れむだって」と言いながら、「意味が分からないだろう?」と、とうとう声を上げて笑い出した。

そして、一頻(ひとしき)り笑うと、「で、『明日は我が身です』って言うんだ。そのハチャメチャな叱責(しっせき)が胸に染みた……」と言って、目尻に溜まった涙を指先で拭う。

「見舞いの言葉はいろんな人からいっぱい貰った。口先だけではない、と分かっているのに、お前らに俺の何が分かるんだって……妙に被害者ぶっちゃって、好意や善意を素直に受け入れられなかったんだ」

「俺って最低だろ?」と顔を歪めてマグカップを両手で握り締める。

「そんな中で小町ちゃんは励ましもせず、俺のことを卑怯者呼ばわりして、挙げ句、自分のところに恩返しに来いって催促したんだ。それを聞いた時、何て女だと思ったよ」

確かにそう思うのも無理はない。