「これ、小町ちゃんみたいなホットミルクだ」
マグカップに口を付けると梶は愁いを帯びた笑みを浮かべた。

「甘く温かなんだけど、ピリリと芯の通った……」
「小梅さんみたいでしょう? 彼女が手塩にかけて育ててこられたから」

小町は小梅とソックリだった。二人にそれを言うと、どちらも『どこが!』と嫌な顔をするが、小梅が内心喜んでいることを結は知っていた。

「俺、最初は彼女の両親が、もうこの世にいないって知らなかったんだ」

そのことも半年一緒に過ごす内に知ったようだ。

「なのに底抜けに明るくて、俺たち家族皆、彼女の明るさに救われた」
「それで好きになったんですか?」

違う、と梶が頭を振る。

「俺は〝まるっとフリーファーム梶〟を設立するときに大風呂敷を広げたんだ。『ファームの名を世界中に知らしめて、世界中から来てもらう』ってね。だから貸付額の上限ギリギリまで借りた」

その金額はかなりものだったという。

「それが一瞬でパー。両親や祖父母は、細々でも家族皆が平和に暮らしていければいいっていう考えだったのに……家族に申し訳なくて、俺……」

死んでしまおう思ったらしい。

「自殺しても出る保険だったから、それで借金は何とか返せると思って――あの頃の俺、壊れていたんだと思う。味わった事のない人生最大のピンチに見舞われて」

梶曰く。

「被害直後は全然大丈夫だったんだ。『復興頑張ろう!』って両親たちを励まして……でも、周りが少し落ち着いてきて、俺自身も考える時間ができて……何だろうな、津波が押し寄せてくるように、突然負の感情が俺を包んだんだ」