しかし、小梅の作る和菓子は評判が良く、それを楽しみにしているお客さんが大勢いたそうだ。

「だから、粘りに粘って説き伏せたんだ。『付き添いで孫と一緒なら』という条件付きでね。その孫が小町ちゃんだったというわけ」

最初は何とも思っていなかったらしい。

「俺の理想はボン・キュ・ボン。メリハリなボディを持つ知的美人だったからね。小町ちゃんもそれを知っているんだ」

自分から言ったそうだ。

「何であんなこと言ったんだろう。俺、本当、馬鹿。小町ちゃんが俺に惚れないように予防線を張ったんだよ」

そこそこ見栄えがいい梶は、経営者という立場もありモテるようだ。

「あの頃、俺は自惚れていたんだ。農場の経営も面白いほど上手くいっていて……」

だが、高くなった彼の鼻をへし折る事態が起こった。『北海道には台風は来ない』という神話めいた定説が(くつがえ)されたのだ。

「あの大型の台風で〝まるっとフリーファーム梶〟も大打撃を受けた」

幸いだったのは小豆の収穫が終わった後だったことだと云う。しかし、建物の損壊やその他の作物の被害は甚大(じんだい)だったらしい。

「一年経った今も立て直すのにヒーヒー言っている」

梶のファームから商品を仕入れていた業者も、その時を境に多くが他に移ったそうだ。

「でも、小梅さんは『あんたんとこからしか小豆は仕入れない』と言って、再建を待っていてくれたんだ。おまけに、小町ちゃんを支援のために半年も寄越してくれて……本当、感謝の言葉もない」

半年間、昼夜問わず一緒にいるうち、梶は小町の内面を見たのだという。