ぶっきらぼうな返事と共に梶は項垂(うなだ)れ頭を抱えた。
「俺……本当に小町ちゃんが好きなんだ」
独り言のような()もった声が結の耳に届く。

「存じ上げております」
カチャンとテーブルにシルバーのトレーが置かれる。

「先日お送り頂いた牛乳でホットミルクを作りました」
そう言って結は白いマグカップを梶の前に置いた。

「梶さんのところの牛乳、本当に美味しいですね」

元々、梶家は小豆農家だった。円屋と梶家の付き合いはその頃からだそうだ。それを梶が〝まるっとフリーファーム梶〟という体験型農場にしたのは、今から七年前のことらしい。

二百ヘクタールという広大な土地を活用した農場では、今も小豆作りは続けられていて、その小豆を使ったお菓子作りや料理教室も好評だということだ。

「これ、蜂蜜と生姜入り? メチャ旨い」

一口飲んだ梶が「パクってもいい?」と、少し戯けたように白い歯を見せる。それは今日初めて見る、いつもの爽やかな笑みだった。

「それ、小町さんに教えてもらったんですよ」
「えっ、小町ちゃんが……」

梶の熱い視線がマグカップに注がれる。

「小町さんとの出会いは、〝まるっとフリーファーム梶〟でしたよね?」
「そう。ファームでは通年行われている菓子や料理教室とは別に、年数回だけ、各地から食のプロを招いた特別講座を開催しているんだ」

講師たちは皆、梶のファームと縁のある職人さんたちだという。

「小梅さんにも春と夏、務めてもらっていたんだけど、二年前だったかな、『一人で旅に出るのは心許(こころもと)なくなってきた』と断りが入ったんだ」