「まだ怒っているみたい」ハクの呟きにカイは取り繕ったように「そうですか?」と白々しい言葉を返した。

そんな現状でもご祈祷は滞りになく終了した。

「巫女の後に続き、御利益を貰え」

縁の態度は結のフラストレーションを大いに増長させたが、事の起こりが自分に有ると知っているので素直に従う。

「では、梶様、こちらへ」
恋神茶寮へと案内する途中で、結は縁の無礼を詫びる。

「気にしていない。それより、あいつは本当に小町ちゃんを想っていないんだよな?」
「インさんですか? 私のことはともかく、想い人は小町さんではないと思います」

結びの言葉に梶は気が抜けたように深く息を吐いた。

「あんな綺麗な兄ちゃんだと思っていなかったから……あいつが本気なら、俺、負けると思ってビビってたんだ」

だから殴り掛かったのだと梶は言う。

「負け犬の遠吠え? 悪かったな、神社で暴力なんか振るって」
「いえ、私の方こそ……お節介でした」

まさか梶がこちらに来ているとは思っていなかったのだ。

「滋賀にはお仕事で?」
「う……ん」

梶の返事は少し歯切れが悪かった。だが、結はそう感じながらも黙って梶を茶寮に迎え入れた。

「そちらのソファにお座りになり、お待ち下さい」

従順に腰を下ろした梶を見遣り、いつものように結はキッチンに向かうとお茶の用意を始めた。

「昨夜は私がメールを送ったせいで眠れなかったのでは?」

外仕事が多い梶は、小麦色の肌といい、マッチョな体格といい、太陽がよく似合う健康的な男性だった。その顔が今日は少し青い。

「巫女様のせいじゃない」