「お前が注意できる立場か?」
「あっ……すみません」

肩を丸めて小さくなる結を、偉そうに見下ろす縁に、「では、わたくしなら、よろしいのですね」と言ってカイがほくそ笑む――が、それは白眼視をも返り討ちにするような冷たい微笑みだった。

「縁様、恋神神社を(おとし)めるような言動はお控え下さい」
語尾の『下さい』と共に眼鏡の奥の眼が鋭利に光る。

「ということで、ハク、梶様の受付をお願いします」
いきなり声を掛けられたハクはヒッと息を飲む。その瞬間、尻尾がポロンと出現する。

「ハク、気を引き締めなさい!」

結の背がそれを隠したので梶には見えなかったが、人間にバレたら大変なことになる。それを憂慮(ゆうりょ)してカイはいつもより厳しくハクを叱責(しっせき)した。

「それから因様。貴方様は明日、改めていらして下さい。よろしいですね!」
有無も言わさぬ眼光に、流石のインも顔を引き攣らせるとコクコク頷いた。

結はこの時、やっぱり縁よりカイが師匠になった方がいいのではないだろうかと、真剣に思惟(しい)した。


 *


(かじ)光彦(みつひこ)、二十九歳。職業は農場経営で間違いないか?」
縁が問うと、梶は先程の様子とは違い、素直に、はい、と返事をする。

「住所は……北海道十勝? 随分遠くから来たんだな」
「ねぇ、縁様の態度、今日はいつも以上に横柄じゃない?」

ハクの囁きにカイは小さく溜息を吐く。

「先の一件があるからでしょう」
梶の口答えが勘に障ったのだろう。

「本当、大人げないね」

「縁様はご成長の途中にありますから……」
子供なので、と言いたいところをグッと我慢しているようだ。

コソコソと話す二人をよそに、縁が祈祷を始める。手を抜いているように聞こえるのはカイの気のせいではないみたいだ。