〝おかめひょっとこ〟のお面が脳裏を過ぎり、ハクが声を上げると、再三神社に参っているからか、縁も小町を知っていた。

「それなら面白いことになりそうだ」とシニカルな笑みを浮かべる。
「うわぁ、小町ちゃんにもようやく春が訪れるのかぁ」

ハクの歓喜の声に、結も「本当にそうだったら良いね」と微笑み、小町を思う。

彼女は惚れやすいが、いつも真剣だった。そして、人一倍幸せを欲していた。それは彼女の生い立ちにあるのだが――。

結は溜息を一つ零すと()る男性の顔を思い浮かべた。ハクも……小町自身も知らない彼の想い。

――もし、あのイケメンさんと小町さんが相思相愛になったら……彼の失恋は決定だ。

恋神として、人の恋路にとやかく言うつもりはないが、やはりそれは違うんじゃないかと思う結だった。だからかもしれない。お節介を焼いてしまったのは……。


 *


「止めろ! 何をするんだ!」

翌日の十時少し前。拝殿の入り口近くにある受付付近から、人の争う声が聞こえると同時に、「結様ぁ!」と、ハクの悲痛な呼び声が聞こえた。

結とカイが駆け付けると、昨日のイケメンと男性が掴み合いの喧嘩をしていた。

「結様、助けてぇ」

ハクは受付カウンターの中にいて、結たちの姿を見た途端、半泣きで飛び出してきた。

「これはどういうことですか?」
結の背中に隠れ、ブルブル震えるハクにカイが尋ねる。

「し……知らない。突然、こんなになっちゃったんだ」

だが、背中を向けていた謎の男性がこちらを向いた途端、結が「あっ!」と声を上げた。