「了解しました。では、恋神神社に着いたら受付を済ませて拝殿にお越し下さい。ご案内はハクが致します」
「うん、ありがとう」

だがこの時、破顔一笑しながらもインがほくそ笑んだことを、結たちは全く気付いていなかった。


 *


「で、その超絶イケメンは、突然予定を変更すると『明日行く』と言って帰ったんですね?」
「そうだよ。本当に変なイケメンだった」

子鮎の甘露煮を口に入れ、「僕、これ大好き」と言って、ハクはエンドレスにそれを頬張る。

「まぁ、今日でも明日でも、こちらとしては良いのですが……」

その様子があまりにも美味しそうなので、カイも躊躇していた甘露煮に箸を伸ばした。そして――。

「本当でございますねぇ。淡水魚なのに全然臭くない。大変美味しゅうございます」

淡水魚は海水魚と比べて『泥臭い』と云われることが多い。だからカイも好んで食べようと思ったことがなかった。

「琵琶湖で採れた子鮎を伊吹(いぶき)山で採れた山椒(さんしょ)と一緒に煮たものです。お口に合って嬉しいです」
「これはね、おばば様の大好物だからだよ。結様、一生懸命覚えたんだ」

カイの褒め言葉にハクが嬉しそうに説明すると、カイは、「結様は〝誰かのための料理〟なら(りき)が入るのですね」と優しく笑った。

「料理って基本そういうものでは?」と、赤面しながら応答する結に、縁が、「なら、俺が口にする日々の料理にも力を入れろ!」と片目の潰れた目玉焼きを箸で指し、ギロリと睨んだ。

「卵料理は簡単そうで難しいですからね……」
「そうそう! 茶碗蒸しにスが入るのも、スクランブルエッグが炒り卵になっちゃうのも、卵料理だもんね」