「あっ、ごめん。トリップしてた」
エヘヘ、と笑って小町は「何にする?」と訊く。

「私とハクは特性マロンパフェ。えっと、インさんは何にします?」
「俺もそれ。期間限定だったよね?」

この店をリサーチ済みのようだ。

「よくご存じで。そうなんです。円屋の(こだわ)りで、栗は高島(たかしま)市マキノ町のもの、と決まっているんです。だから栗が採れる期間中だけなんです」

細い目をハートにした小町が鼻息荒く質問に答える。

「ねぇ、若干インが引き気味に見えるのは、僕の気のせいじゃないよね?」

ハクの言葉に結が苦笑いを浮かべていると、「何やってるんだい!」と店内に怒号が響く。と同時に「痛っ」と小町が身を引いた。円屋の主である小梅(こうめ)が小町の耳を引っ張ったからだ。

「わわわ、ばっちゃん、止めて! 痛い!」
「痛いと思うんなら、さっさと仕事に戻りな」

鬼の形相でシッシッと小町を奥に追いやると、次の瞬間、小梅は菩薩(ぼさつ)様のような微笑みを浮かべた。

「いらっしゃいませ。巫女様、毎度ありがとうございます」

そして、湯呑みを各々の前に置きながら、「今年の栗も良い出来で美味しいですよ」と、さらに目尻を下げた。

「そりゃあ、楽しみだ」
「おや、お兄さん、甘い物好きかい?」

「大好物です」と答えるインに、「そうかい、そうかい」と小梅は顔を綻ばせる。

「甘い物好きに悪い奴はいない。あんた、顔も良いけど、中身も良い奴だね」

そう言って、「小町、この男前さんに〝あんころ餅〟もやっとくれ。あたしの(おご)りだよ」と声を張り上げた。