「そういう意味じゃなくて、ここには琵琶湖を見に来たんだけど、ほら、恋神神社ってネットで評判だっただろ? だから、ついで? そんな感じ。あっ、ちょっと失礼だったかな?」

あはは、と苦笑しながら、「こういう余計なことを言うからモテないんだよね」と頭を掻いた。

「何か変な人だけど、悪い人じゃないみたい」
結もそう思ったが、モテない、というのは嘘だなと思った。

そんなやり取りをしているうちに円屋に到着すると、インはスマートフォンのカメラで店の外観を撮り始めた。

「That's great!」

思わず、という風に出た英語は『素晴らしいですね』だった。
インがそう言うのも無理なかった。

円屋は、歴史的にも美術的にも価値ある建物として、遠くない未来に『重要文化財になる』と言われていた。

「早く中に入ろうよ」
これ以上はもう待てない、と言うようにハクが結の手を引く。

「おお、そうだね。中も見たい!」
興奮気味のインは、待たしていた結たちを置いて、そそくさと店に入っていった。

「ああいうところは、縁様に似ているね」
「何となくね」

ハクと結が顔を見合わせていると、「早く!」とインの呼ぶ声が聞こえ、結たちも店に入った。

「いらっしゃいませ」

元気のいい女の子の声が店内に響く。円屋の看板娘小町(こまち)の声だ。

彼女は結たちを見ると、色白の〝おかめさん〟と呼ばれるお面に良く似た柔和な顔で、細い目をより細め「お久し振り」と声をかけた。

だが、その瞳の輝きがいつもと違った。

「結さん、彼、誰? ボーイフレンド? すっごいイケメン。俳優さんみたい」