「前を見ていないと怪我をするよ」

その容姿はどう見ても日本人に見えなかったが、彼はとても美しい日本語でそう注意した。

「あ……ありがとう」
「すみません、ありがとうございます」

ハクに続いて結もお礼を言う。

「どういたしまして。ところで、この辺りに円屋という甘味処があると聞いたんだけど、どこにあるか知っているかなぁ?」

青年は手に持つスマートフォンを見ながら、「男なのに地図を読むのが苦手でね」とウインクする。それは、結のみならずハクまで赤面してしまうほど魅力的なウインクだった。

「あっ、それなら僕たちも行くところだから、一緒に行こう!」

ハクの誘いに青年は喜色満面となる。

「結様、イケメンの笑みは凶器ですね。何ですかアレ。僕、男同士だけどドキドキしちゃいました」

美少年のハクが言うのだ、これほど確証めいた言葉はない。結はもっともだと思わず何度も頷いてしまった。

「自己紹介がまだだったね。俺、イン。外面は外人だけど、内面はザ・サムライって言われてます。で、君たちは?」
「僕はハク。恋神神社で結様のお手伝いをしています」
「恋神神社? お手伝い?」
「あっ、私は恋神神社で巫女をしている結と言います」

「ああ、なるほど」とインは結を凝視する。

「君が噂の恋神神社の巫女様? 俺、円屋の後で恋神神社に行こうと思ってたんだよね」

そう言ってインは「ラッキー」と笑った。

「恋神神社に……ということは、恋の成就をお願いしに、ですか?」

これほどのイケメンが片想い? 結は一瞬そう思ったが、次の瞬間、ないない、と心の中でそれを打ち消した。