縁の言葉が胸に残り、結は悶々(もんもん)とした日々を送っていた。

「結様、本日のやるべき事は全て終了致しました。このところお忙しくお疲れのご様子ゆえ、夕餉(ゆうげ)の用意はわたくしに任せてお身体をお休め下さい」

昼食を食べ終わると、スケジュールを確認したカイが結を気遣うように言った。

「お休み! だったら久々に円屋(えんや)のパフェを食べに行こうよぉ!」
ハクが嬉しそうに結を誘う。

円屋とは、恋神神社から湖岸沿いに徒歩で十分ほど行ったところにある和風甘味処だ。北海道十勝産小豆で作った餡子が『超絶に美味しい!』と評判の店だった。

結とハクもこの餡子のファンで、一週間に一度は訪れていたが、おばば様がいなくなってからは全く行けていなかった。

そう言えば……と結は思い出す。秋限定の〝特製マロンパフェ〟がそろそろお目見えする時期。それを思うと(たま)らず喉が鳴った。

「本当に、お留守番をお願いしてもいいのでしょうか? 縁様には……」

今朝からずっと姿が無かった。カイ曰く、お出掛けです、とのことだった。

甘味な誘惑に勝てず、申し訳なさそうに尋ねる結に、カイは「わたくしから言い出したのですからお任せ下さい」と快く送り出してくれた。


 *


「結様、メチャ久し振りですね」
黄金色に染まったイチョウの並木道をハクは飛び跳ねるように歩いている。

「ハク、嬉しいのは分かるけど、前を向いて歩かないとこけるよ」

「大丈夫」と言った尻から(つまづ)きそうになったハクを、瞬時に助けたのは白銀の髪をした青年だった。