「神崎百合香さんの件です。わざと彼女を選んだんですよね?」

二ヶ月ほどが経ち、ようやく丸く収まりつつある中で、結はどう考えても偶然とは思えない展開だったと改めて思ったのだ。

「ああ、あれかぁ。こんがらがった縁を整理したかったんだ」

(えにし)(えん)を結ぶ神。夫婦や恋人同士の愛には赤系の糸。親子の愛には白系の糸。というように、縁によって色が違ってくると云う。それが時々絡まってしまうらしい。

「神崎百合香の場合、佐伯友介との赤い糸に、赤城俊哉と佐々木聖美の赤い糸が絡まり、尚且つ、父親との白い糸が絡まって、もう、ぐちゃぐちゃだった」
「もしかしたら……私のため、というよりもご自分のため?」
「おっ、良く分かったな」

ズズズと音を立ててお茶を飲み干した縁は、「でも……」と言葉を続ける。

「結果的に、佐々木聖美と赤城俊哉、神崎百合香と佐伯友介。二組のカップルが幸せになりつつあるんだから、文句はないだろう?」

縁の言うとおり、二組のカップルは困難を乗り越えて、お互いの想いを確かめ合い、幸せを手に入れつつあった。それに伴い良質のパワーが徐々に増え、恋神神社閉鎖の危機は免れた、と感じつつある今日この頃だった。しかし――。

「だからといって私のことを利用するなんて……」

縁は結の抗議に臆することなく弁明する。

「師匠としてお前に、〝成功〟を手にするためにはどんな手を使ってでもそれを勝ち取るのだ、ということを教えようとしたまでだ」
「意味が分かりません。どんな手を使っても? 相手を騙して利用しても……成功しろと?」
「ああ、そうだ。終わりよければ全てよし。結果がものを言う世の中だからな」

――何かが間違っている。結の胸に暗雲が広がっていく。この人は本当に神様なのだろうか? 結は縁の中に闇を見たような気がした。