*


それから小一時間ほどが経ち、結は朱塗(しゅぬ)りのお盆を持って彼女の元に戻った。

「お待たせ致しました」

そう言って彼女の前にお盆を置く。そこにおむすびが二個載った小皿と煎茶の入った湯呑み、そして、お絞り置きの上に載ったタオル地のお絞りが置かれていた。

「これは……御利益が頂けるというおむすび……」
「はい。それプラス、神崎さんがお尋ねの『どうすれば良かったのか』の答えも入っています。どうぞお召し上がり下さい」

結の言葉に彼女はビクリと肩を震わせ息を呑むと固まってしまった。

「遠慮なさらずに、どうぞ」

促すその声は決して無理強いするものではなかった。だが、拒絶できない(りん)とした迫力があった。

容赦(ようしゃ)ないな、とモニターを見ながら縁が呟く。結様も必死なんですよ、とハクが(かば)う。その隣でカイが大きく頷き、感服(かんぷく)致します、と言った。

神崎百合香は結の言葉に(あらが)えなかったようだ。怖ず怖ずとおむすびに手を伸ばした。そして、一口頬張り、あっ、と目を見開いた。

「これは……金平ごぼうのおむすび」

おむすびと結の間に視線を行き来させた後、彼女は(おもむろ)に尋ねた。

「これは私がランチに作ってきた金平ごぼうですか?」
「そう言って頂けて光栄です。ですが、私が作ったものです」

神崎百合香は「ですが……あの……」と、昨日結が作ったという金平に目を向けた。それと雲泥(うんでい)の差が有ったのだろう、当惑しているようだ。