「だって……彼の将来を思ったら、その方がいいと思ったから」
「だから、お見合いまでしたんですか?」
「彼を説得する理由が思い浮かばなかったから……」

バンと音を立てて結がテーブルに箸を置いた。

「神崎さん、貴女、凄く自分勝手ですね!」
「えっ? 私は彼を思って……」
「彼って佐伯友介さんのことですよね? じゃあ、赤城俊哉さんのことは?」

あっ、と彼女が息を呑む。

「佐伯さんを思うがあまり、赤城さんの気持ちを考える余裕が無かったようですね?」
「私……だって……赤城さんだってきっと……」
「きっと何だと言うんですか? 貴女と結婚すれば得だとでも?」

ほほう、とモニターを見ていた縁、カイ、ハクは、結の迫力に歎美(たんび)の声を上げた。

「ええ……そうよ! 彼の家の食堂よりも有名で大勢のお客様が来る、うちのレストランが手に入るんですもの」

開き直ったように彼女が声を張り上げた。

「それに……父も彼のことを気に入っているし……」
「神崎さん、貴女が言う〝結婚〟は誰の結婚ですか?」
「誰のって、私のに決まっているじゃない!」

ヒステリックに叫ぶ神崎百合香に、結はフルフルと(かぶり)を振った。

「貴女の結婚とは思えません。お父様の、もしくは、佐伯友介さんのための結婚に思えます」

彼女の瞳からポロポロと涙が零れ落ち、彼女のスカートに染みを作っていく。

「――じゃあ、どうすれば良かったと言うんですか?」

(おもむろ)に結は立ち上がると、「少しの間お待ち願います」と言ってキッチンに向かって歩き出した。