少し冷たくなった初秋の風が、朱色の(はかま)をフワリとはためかせた。結は風で乱れた肩までの黒髪をソッと撫で上げる。

おばば様の姿が消え(はや)半月。緑々としていた木々に、ちらほらと赤や黄色の葉が混じり始めた。

「結様、空ばかり見ていても何も変わらないよ」

とはいえ、多かれ少なかれ日常に変化は付きものだ。だが、日々やらなければいけないことは変化云々に関係無くやらなければいけない。なぜなら、後に困るのは自分だからだ。

「それよりさっさと掃除を済ましてしまおうよ」

美少年の(わらべ)変化(へんげ)したハクが、もどかしそうに白銀の髪を左右に振り、神使の(つと)めとばかりに意見する。

「そうだねぇ……でも……何がどうなっているんだろうね?」
「大神様の思惑は僕には分からないけど、きっと何か事情があるんじゃない」

その事情が何なのか知りたい、と思ったところで誰に()けばいいのやら、だった。
再び空を見上げて大きな溜息を吐く結を、「ほらほら!」とハクが急かす。

「僕はね、お腹が空いてるの、早く朝ご飯が食べたいの」

そう言えば、と結もお腹に手を当てる。

「どんな状況でも空腹って感じるものなのね……」
「それは人間でも神様でも神使でも同じ。腹が減っては(いくさ)ができぬ、だよ」

「戦をするつもりはないけど……」と言いながら、結は(ほうき)を持つ手を素早く動かし始めた。


「終了! 朝ご飯にしましょう!」

懐からスマートフォンを取り出して時間を確認する――ジャスト午前六時。
これからご飯を炊いて……と、結は今日一日のスケジュールを思い浮かべる。