そこで、紅茶を啜りながら「明日のランチが楽しみです」と言ってみると、彼女は破顔一笑(はがんいっしょう)した。

「お口に合うか分かりませんが、期待を裏切らないように頑張りますね」

やはりだった……彼女は料理の話を持ち出すと素に戻るようだ。偽りの無い笑顔がその証拠だった。

「神崎さん……」
「巫女様……」

二人の声が重なる。

「あっ、どうぞお先に」

結の言葉に彼女が頭を下げる。

「御利益を授けて下さるの……明日、お弁当を持ってきたときにして頂けませんか?」
「一日延期、ということですね?」

恐縮しながらも彼女は、「はい」と頷いた。同じことを思っていた結はニコリと笑むと、「承知しました」と快くその意を受け入れた。


 *


「縁様、これはどういうことですか?」

神崎百合香の前では神妙な顔で平静を装っていたが、彼女が帰った今、結の(たが)は大きく(はず)れた。

「何を怒っているんだ?」

御簾(みす)の向こうのソファに横になりながら、縁がチラリと結を見る。

「白々しい!」

結はこめかみに青筋を立て、大きく舌打ちした。

「珍しい……あの結様が舌打ちとは。縁様って人を怒らせる名人ですね」

小声でハクがカイに話し掛ける。

「何を仰る白狐(びゃっこ)さん、です。こんなの序の口です。大神様を怒らせるぐらいですよ」
「うへぇ、先が楽しみ……ううん、先が思いやられるね」

コソコソと二人が言い合っている間も結は縁に文句を言い続けていた。

「そもそも想い人のブッキングなんて……誰が、どう収拾を付けるんですか?」
「それはお前が、おむすびで、だろう?」
「縁様ぁ! 指を差さないで下さい! 簡単な、って言ったじゃありませんか。こんなの全然、簡単じゃないです」

瞳を潤ませ縁に抗議する結を無視して、縁は手にある雑誌をペラペラ(めく)る。