「お家がレストランなら、神崎さんもお料理上手なんでしょうね?」

キッチンから結は彼女の様子を観察する。

「作るのは好きですが、和食を中心とした素人料理です。趣味程度ですので……プロには(かな)いません」

微妙な微笑みを浮かべると、彼女は口をキュッと引き締め唇を噛んだ。
その顔が、何に対してなのか分からないが、結にはとても悔しそうに見えた。

「うわっ、それ私には嫌味にしか聞こえません」

だが、結はそのことには一切触れず、縁に言われた数々の嫌味を愚痴りながら、「神崎さんのお料理、食べてみたいです」と、少々強引だが強請(ねだ)るように言った。
何となく彼女の料理が、今回の鍵だと思ったからだ。

かなり厚かましい願いだったが、彼女は気を悪くすることもなく、いとも簡単に承知してくれた。

「では、明日のランチに間に合うように作って持ってきますね」

そう言って浮かべた微笑みは、曇りが無く、今日見たどの表情よりも生き生きとしていて綺麗だった。

だからかもしれない。結は首を傾げた。そして、結婚よりもランチ作りの方が幸せなのだろうかと思った。

「お待たせしました」

さらに訳が分からなくなりながらも結は対話を続ける。

「紅茶を美味しく淹れるのって難しいですね? 上手に淹れられたか分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」
「ありがとうございます。いただきます」

彼女の指がカップの取っ手を握る。あれっ? 結の目がその手を凝視する。
いくら料理好きのお嬢様でも、白魚のような美しい手をしていると思っていたからだ。

〝趣味〟程度? 彼女の言葉に結は疑問を持つ。