申込書には〝神崎(かんざき)百合香(ゆりか)〟〝二十二歳〟とあり、経歴の欄には、今春、女子大を卒業した旨が書かれていた。

「お見合い相手とのご結婚をお望みとのこと。もう少し詳しくお聞かせ下さい」

ご祈祷後、恋神茶寮にて質問タイムが始まった。
神崎百合香という女性は、見るからにお嬢様然とした女性だった。

「お見合いと言っても 父の元で働いている男性です。うちには修業に来ているんですが、とても腕のいいシェフなんです。年齢は二十八歳で……私から父にお見合いさせて欲しいと頼みました」
「お相手の名前は……えっ?」

結は申込書の〝相手の情報〟欄に目を遣り、そこを穴が空くほど見つめ、それから三回(またた)きをした。

「赤城俊哉……さん?」

そこに書かれていた情報は、どう見ても佐々木聖美の相手だったからだ。
――どういうこと?

「はい。私の理想に近い男性なんです」

結の困惑など知る(よし)もない神崎百合香は、花のような可憐な笑みだが、まだ蕾のような固い笑みを浮かべて大きく頷いた。

少し高飛車に見えるが緊張しているのだろう。この時結はそう思った。

「父はレストランを三店舗経営していて、二人の義兄にそれぞれ一店舗ずつ任せています。だから私の旦那様もシェフじゃなきゃダメなんです」

一瞬だけだが彼女の瞳が曇ったように見え、結はさらに質問する。

「貴女の理想の男性とは?」
「どうせなら……背が高くて、細マッチョで、ワイルドな感じのイケメンです」
「その条件に赤城俊哉さんが当て嵌まるということですか?」
「はい。それにシェフだし……」

また彼女の瞳が曇る――と同時に、結の頭中でカーンカーンカーンと危険を知らせる警報の音が鳴り響き始めた。