「確かにそうです。良質のパワーは幸せからしか得られませんから」
「ほんじゃあ、佐々木聖美が努力している間に、二人目、いってみようか!」

縁が嫌な(わら)いを浮かべる。

「えっ? 今回の結果を見てからでも……」
「佐々木聖美にだけ努力させて自分は高みの見物ってか? 甘―い! そんなので一人前の恋神になれるとでも思っているのか?」

言われてみればそうかもしれない……が、と結は眉尻を下げる。

「まだ二つの願いを同時に叶える自信がありません」
「そう言うと思って、簡単そうな願いを選んできてやった」
「おや? 縁様が拝殿に行かれたのはそのためですか?」

カイが目を丸くする。

「ああ、早く天界に戻りたいからな」
「縁様……早々のご成長、わたくしは嬉しゅうございます」
「泣き真似はよせ! シラける」
「そうでございますか?」

カイは目元から白いハンカチを外すと胸ポケットにしまいニッコリ微笑んだ。

「それで、その願いとは?」

それは拝殿で正式に受け付けた願いではなく、参拝に来た人が残していった願いの一つだった。

「直接、本人に聞け」

現在、恋神神社の宮司は縁だ。故に、縁に選ばれし願いの主は、引き寄せられるように拝殿に参上する。

結は溜息を一つ零して、「了解しました」とおむすびを手に取り、ガツガツと食べ始めた。

「本当、追い詰められたときのお前のその食べっぷり、豪快で頼もしいな」

ニヤリと笑うと、縁はシジミの味噌汁を啜り、「そうそう、金平の作り方は……」と説明を始めた。


 *


午後になり、予定どおり、願いの主が現われた。