「おや? 琵琶湖でもシジミが採れるのですか?」
「はい。琵琶湖にだけ生息する固有種で、〝瀬田(せた)シジミ〟と云われる貴重なシジミです。ですが、寒シジミだそうで、十二月から四月しか採れないとのことでした」

「結様……」ハクが残念な子を見るように結を見る。

「それって、おばば様がずいぶん前に仰ってたよね? 忘れてたの?」
「えっ、そうだった?」
「お前の場合、努力と共に暗記力も養ったほうがいいな」

そう言いながらおむすびに手を伸ばした縁が、唐突に「そうだ。今夜、金平が食べたい」とリクエストする。

「金平……ですか?」

結は過去の失敗――〝鷹の爪ドバッと事件〟を思い起こし、眉間に(しわ)を寄せた。

ハクも思い出したようだ。「結様、僕、激辛は嫌だからね。今度は程々にしてよ!」と念を押す。

「夕飯のお話はそこまでにして、先程お尋ねした佐々木聖美の件ですか、どのような進行状況でしょうか?」

あの日、佐々木聖美は一つ目のおむすびで忘れていた記憶を取り戻し、二つ目のおむすびで今回握らなければいけないおむすびの味を覚えた。

「同じおむすびが握れるように毎日練習されているようです」
「結様は、やっぱりやればできる子だったね」

ハクが嬉しそうにお宝茶巾を頬張る。

「ええ。あれだけ躊躇(ちゅうちょ)なさっていたにもかかわず、素晴らしい手腕でございました」
「褒めるのはまだだ。成功という結果を得なければ幸福は得られないんだろう?」

縁の言葉に、結は顔を引き締める。