父ちゃんと呼ばれた店のご主人も、彼の母親である女将さんも、とてもいい人だったと彼女は言う。
「彼の唐揚げをそのままにして、新しい唐揚げを揚げておむすびを握ってくれたんです。『新メニューの誕生だ!』『これは試作品だから料金は変わらずだからね』と言って……」
「本当に素敵な方々ですね」
結の言葉に佐々木聖美は大きく頷いた。
「彼と私……友達だった……」
当時に思いを馳せるように、彼女の目が虚ろに遠くを見る。
「彼のご両親も私の母も忙しく働いていて……自然に仲良くなったんです」
赤城俊哉の両親は、多忙な自分たちに代わり息子と一緒にいてくれる佐々木聖美に感謝していた。本当は、あのおむすびは感謝の表れだった。だから母親は恥だと思うことも、卑下することもなかったのだ。
人間だけに唯一与えられた〝言葉〟は、人間同士を繋ぐコミュニケーションの一つだが、言葉足らずが誤解を生み、取り返しもつかいない悲劇を生むこともある。
「――そうだった。私は母と親切な近所の人たちと、貧しいながらも幸せに暮らしていたんだ」
今初めてそれを知ったかのように、彼女は両手を胸に置き、痛々しい微笑みを浮かべた。
「彼の事だけじゃなくて、小さな頃のことを全て忘れていました」
「なぜですか?」
結の問いに彼女は辛そうに口を開く。
「その日の夜――母が死んだからです。お風呂屋さんに向かう途中、こんな恥ずかしい私を暴漢から守って……」
彼女は母親の死が受け入れられなかった。だから、母親に捨てられたと思う事にした。記憶のすり替え。彼女は無意識にそれをやってしまったのだ。
「どこかで母は生きている。そう思っていた方がマシだったから……それで母を憎んだとしても……」
「それではお母様は浮かばれませんね」
結の放ったひと言が彼女の胸に突き刺さったのだろう、彼女の顔が苦痛に歪む。
「巫女様の言うとおりです」
堰を切ったように彼女の瞳から涙が溢れ出す。
「彼が怒った理由が分かりました」
「彼の唐揚げをそのままにして、新しい唐揚げを揚げておむすびを握ってくれたんです。『新メニューの誕生だ!』『これは試作品だから料金は変わらずだからね』と言って……」
「本当に素敵な方々ですね」
結の言葉に佐々木聖美は大きく頷いた。
「彼と私……友達だった……」
当時に思いを馳せるように、彼女の目が虚ろに遠くを見る。
「彼のご両親も私の母も忙しく働いていて……自然に仲良くなったんです」
赤城俊哉の両親は、多忙な自分たちに代わり息子と一緒にいてくれる佐々木聖美に感謝していた。本当は、あのおむすびは感謝の表れだった。だから母親は恥だと思うことも、卑下することもなかったのだ。
人間だけに唯一与えられた〝言葉〟は、人間同士を繋ぐコミュニケーションの一つだが、言葉足らずが誤解を生み、取り返しもつかいない悲劇を生むこともある。
「――そうだった。私は母と親切な近所の人たちと、貧しいながらも幸せに暮らしていたんだ」
今初めてそれを知ったかのように、彼女は両手を胸に置き、痛々しい微笑みを浮かべた。
「彼の事だけじゃなくて、小さな頃のことを全て忘れていました」
「なぜですか?」
結の問いに彼女は辛そうに口を開く。
「その日の夜――母が死んだからです。お風呂屋さんに向かう途中、こんな恥ずかしい私を暴漢から守って……」
彼女は母親の死が受け入れられなかった。だから、母親に捨てられたと思う事にした。記憶のすり替え。彼女は無意識にそれをやってしまったのだ。
「どこかで母は生きている。そう思っていた方がマシだったから……それで母を憎んだとしても……」
「それではお母様は浮かばれませんね」
結の放ったひと言が彼女の胸に突き刺さったのだろう、彼女の顔が苦痛に歪む。
「巫女様の言うとおりです」
堰を切ったように彼女の瞳から涙が溢れ出す。
「彼が怒った理由が分かりました」