「同じ阿呆なら……ですか、地獄に行くより阿呆になった方がいいかもしれませんね」
「そうそう。地獄に行く気になったらどんなことでもできます。私が精一杯お手伝いします。じゃあ、赤城俊哉さんのことを教えて下さい」

小一時間ほど佐々木聖美と話をして、結はキッチンに籠もるとおむすびを二個握り彼女の元に戻った。

「これが御利益の授かるおむすびですか……」

皿に載っていたのは三角形のおむすびだが、海苔は付いていなかった。
目の前に置かれたそのおむすびを見つめ、佐々木聖美は祈るように両手を組んだ。

「誤解しないで下さいね。先程も申しましたように、貴女がこれと同じおむすびを握れなかったら御利益を授かる機会はありません」

申し訳なさそうに結が再度誓約について述べると、彼女は大きく頷いた。

「私……精進します」

そう返事をする彼女の眼に、今まで見られなかったエネルギッシュな光が宿っていた。

――これなら大丈夫かも……。

「では、まず召し上がって下さい」
「はい、いただきます」

しかし、おむすびへと伸びる彼女の手は震えていた。
彼女も未知なる未来に足を踏み出すのが怖いのだ。結はそう感じた。

「ずっしりと重い」おむすびを手にした感想を彼女が述べる。
――それは貴女の想いの重さです。

「お米の一粒一粒が綺麗に並んでいて美しいです」
――それは貴女の心が綺麗だからです。

そして、ひと口頬張った彼女がハッとする。
「これ……このご飯の味と香り……」