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「ねぇねぇ、縁様がここに来てもう二日も経つよ」

ハクが結に耳打ちする。
「なのに……」と言いながらハクの眼が縁を見る。

「恋神神社のプライベートビーチから眺める琵琶湖は絶景だと聞いていたが、夕陽が徐々に湖へと吸い込まれていく様は格別だな」

傾き始めた太陽を目前に、縁はリクライニング式のビーチチェアに寝そべりながら、「カイもそう思うだろう?」とそちらに目をやる。

「昨日もこんな感じじゃなかった? こんな状態でいいの?」

ハクの美しい顔が情けない顔になる。結も同感だが、「とにかく、様子見として、もうしばらく彼に付き合おう」と囁いた。

四人が今いるのは、お(やしろ)の裏にある入江の砂浜だが、〝神聖な場所〟として結界が張られているために人間は入れない。

「まことに。海とはどこか(おもむき)が違う美しさです。穏やか、と申しましょうか? わたくしもこの時間帯の琵琶湖が好きです」

ガーデンテーブルに頬杖を付きながら、いつになくリラックスしているように思えるカイがうっとりと湖に目を向け返事をする。

「あっ、縁様もカイも、言っとくけど、夕陽が見えるのは湖岸の東からだけだよ。西は朝陽。だから、西側の人は朝陽に染まる琵琶湖が一番好きって言う人が多いんだよ」

自然の力は偉大だ。人の気持ちをも雄大にしてくれるようだ。

「太陽が西から昇らない限り、それ、当然だろう」

ハクの説明に珍しく縁が嫌味じゃない笑みを浮かべた。

「ところで、お夕食は昨日に続き、今日もここで?」
「ああ、昨日みたいにピクニック弁当にしてくれ」

散々おかずに文句を言っていたにもかかわらず、どうやら今日も手伝う気はなさそうだ。