「釜? 炊飯器があるだろ? なぜ文明の利器を使わない?」
「ご飯をより美味しく仕上げるためだよ」
「ハク、口の中に物を詰め込んでお話ししないの! お行儀が悪いよ」

結の注意に「はーい」と返事をしながら、ハクは「今日もメチャ美味です」と親指を立て笑む。その笑顔に結も幸せな気分になる。

縁は手にあるおむすびを見つめ、「より美味しく……ねぇ」と呟き、フッと口元を(ほころ)ばせた。

「梅におかか。具はオーソドックスだが、噂は本当だったみたいだな」

それはここに来て初めて見せる素の笑みだった。
その微笑みに結はドキッと胸を躍らせる。あまりにそれが神々しかったからだ。

「本当に神様だったんだ……」
「何が本当に、だ?」
「えっと……本当におばば様は戻って来られないのかなぁ、と思いまして……」

しどろもどろ誤魔化す結に、「お前が一人前にならない限り、なっ!」と縁は念押しのように語尾を強めた。

「しかし、本当に美味しゅうございますね」

情けない顔になる結にカイが気付かない振りをして褒めると、ハクが「当然ですよ、結様のおむすびは天下一品だもん」と胸を張る。

「どうして、お前が偉そうに答えるんだ?」
「そりゃあ、僕の結様だからですよ」

結の神使であるハクは、心から結を慕っていた。

「わたくしもそんな風に、手放しで(ぬし)様をお慕い申し上げとうございます。しかしながら、縁様はこのような性分でございます故、わたくしは……わたくしは……悲しゅうございます」

肩を落として悲しげに拳を握り締めるカイを、ハクは気の毒そうに見つめ、ポツリと呟いた。