「まったく! 全て置いて出て行けだと! くそっ、朝飯ぐらい食べさせてから追い出せって言うんだ」

ブツブツ文句を言いながら縁がドカリとソファに腰を下ろす。

茶寮は祈願者のために作った場所だった。だからカイの言うとおり、居心地の良い空間作りを心掛けてきた。ソファセットもその一つで、結とおばば様が吟味に吟味を重ねて選んだ逸品(いっぴん)だった。

「それなのに……」

縁の態度がそれを無雑作に扱っているように見え、結は堪らなく悲しくなった。

「彼の容姿はイケメンの部類に入るけど、長い足を組み、ふんぞり返る姿は……やっぱり、どう見てもやんちゃ坊主にしか見えない」

その姿を盗み見しながら結は不安を抱く。彼の(もと)で修業をして、本当に一人前の恋神になれるのだろうか……おばば様は本当に戻って来られるのだろうかと。


 *


縁の要求を不本意に思いながらも、一日でも早くおばば様を取り戻したい結は従順に縁の求めに応じた。

「どうぞお召し上がり下さい」

ローテーブルにおむすびの並んだ大皿が置かれると、縁、カイ、ハクの六つの目が磁石にでも引き付けられたように、その一点に注がれる。

「わーい、結様、いただきます」

まず声を上げ、手を伸ばしたのはハクだった。続いて、手を合わせたカイがスクエア型の眼鏡の奥の目を細めた。

「これは見事なおむすびですね。早速、頂くことに致しましょう」

だが、二人とは対照的に、縁は「ずいぶん遅かったな」と文句を言う。

「それはしょうがないよ。だって、結様はお釜でご飯を炊くんだもん」

結の代わりにもぐもぐと口を動かしながらハクが答える。