「そもそも秋に蜂が活発化するのは女王蜂の産卵期だからとか聞いたことがある」

「一番イキッてる時ですよね。
 まあ自分の女とイチャこいてる時に誰かに邪魔されたら誰だって嫌ですわ」
「曰比谷くんにしかわからない発言ですな」

うーんと三人、並んで腕組み巣を見やる。
全員ツナギ姿に着替えたはいいものの、殺虫剤や煙幕器などを荷台に乗せたまま、微動だにしない。

視力のない伊野でも、自宅台所の窓から網戸ごしに、心配そうな表情でこっちを見るニコルのことは見えた。


「いざ、出陣てやつですか」
「ちょい待ち」
「何すか」
「ダイレクトに今から行くわけかい」

「確かにそれも能がないな」

渥美、言うや否や大家櫨山さんの自宅下まで足を進め、蜂の巣を下アングルから見上げた。



その時だ。

「あ~、これヒメスズメバチですね」

業者さんたちが現れた。

頭の上から足の先まで着用された完璧な防護服の出で立ちはちょっと大袈裟ではないかと疑わせる程の重装備。

だったが、

「これならすぐ取れますよ」

30代半ばくらいの中年男性はそれだけ言うと
網を蜂の巣に被せ、上手いこと隙間から煙幕を巻いてやり

ぼとんと巣を網に落とした。


一同唖然である


「ヒメスズメバチは普通のスズメバチよりまだ大人しいですから、そんな慌てなくても大丈夫なんですよ」

そう言った業者はスムーズに捕獲した蜂の巣を持ち、颯爽とトラックに乗って帰って行った。
その際、もちろん巣周辺に殺虫剤を巻くのを欠かさずに。