珍しく太陽の光がまぶしい、風のない午後だ。

外に出た俺たちは、草の伸び放題に伸びた広場を駆け抜ける。

俺たちがこじ開けるのに、あれだけ苦労した扉を、ヴォウェンは蜘蛛を使っていとも簡単に開けさせた。

飛び出した俺たちのあとを、追いかけてくる。

目的地なんて、なかった。

外に出たところで、行く先も逃げ場もない。

よく考えてみたら、どうしてこんなに外に出たかったのだろう。

こんなにも天気がいい日は珍しいから、最近外に出ていなかったから、ただ単に外を走りたかったから、それだけだったのかもしれない。

「止まれ、今ならまだ間に合う」

ヴォウェンの声が聞こえる。

間に合うって、何に間に合うんだろう。

機動ロボの発したレーザーが、先頭を走る俺たちの目の前の草をなぎ払った。

ルーシーが転ぶ。

立ち止まった俺の前に、ヴォウェンが迫っていた。

先を走っていたジャンが、それに気づいて戻ってくる。

「立ち止まるな、走れ!」

ジャンは、俺たちに背を向けた。

手にしている強制終了棒なんかで、あの蜘蛛たちにかなうわけがないのに。

蜘蛛は立ち止まった俺たちを追い越して、他の逃げた仲間を追いかけていく。

抵抗しようとするジャンの前で、唯一立ち止まった蜘蛛の上から、ヴォウェンが見下ろした。

「全員を連れ戻せ。大人しく作業を続けさせろ」

ジャンは、持っていた長い警棒を振りかざした。

その先端を、蜘蛛の脚に叩きつける。

ヴォウェンの乗った蜘蛛は、ピクリともしなかった。

ジャンは何度も何度も、振りかざし叩きつけ、電流の装置を流したり引いたりしていた。

スクールの中では一番の腕力を持ち、運動神経も抜群、知的で誰よりも信頼の厚いジャンが、どれだけ華麗な棒術の腕前を見せても、ビクともしない、傷一つつかない。

警備ロボ相手では無敵を誇った彼も、ヴォウェンの前では、全く歯が立たなかった。

「もういい加減分かっただろ」

彼はため息をつく。

「お前を押さえておけば、他も全て言うことを聞くと、思ってたんだがな」

ヴォウェンが、ひらりと蜘蛛の上から飛び降りた。

その落下の速度も利用して、ジャンの頭部を殴りつける。

くるりと体を反転させて繰り出した左足が、ジャンの腹を蹴り上げ、さらに右腕で殴りつける。

よろけた彼の胸ぐらをつかむと、もう一発殴りつけた。

「人間より、機械の方が優しかったな」

倒れたジャンの両肩をつかんで立ち上げさせると、みぞおちへの膝蹴り。

その場に倒れ込んだ彼を、さらに踏みつけた。

「やめろ!」

この人に、力で敵わないのは、分かってる。

どうしたら、勝てるんだろう。どうすれば、勝ったことになるんだろう。

「彼を、放してください」

そう言った俺に、ヴォウェンはふっと笑った。

「スクールの外へ出てどこに行く? この島から抜け出していけるところなんて、どこにもないんだぞ。無駄な抵抗だとは思わないか?」

「思います」

「じゃあ、大人しく戻ってこい」

彼はため息をついて、ジャンの背中から足を下ろした。

ふらふらと立ち上がり、ヴォウェンに向かって拳を振り上げたジャンを、もう一度殴りつけて沈める。