「ここのトンネルは、パズルみたいに全体が複雑な動きをして、指定されたものを目的地まで運んでいるんだ」

レオンは、輸送トンネルの複雑な路線図を、警備ロボのモニターに写し出す。

「だけど、ここの動力も止められているから、非常脱出用の歯車を回して動かすんだ。この警備ロボの動力だけで動かせるのは、自分たちが乗っている一枚の板だけ。本来なら他の板が連動して動き、通路をあけてくれるんだけど、それをしてもらえないから、途中で何度も乗り換えなくちゃいけない」

「便利なものも、時には面倒くさいわね」

レオンは天井となった床板を閉めた。

暗闇が世界を支配する。

警備ロボのつけた灯りが、真っ直ぐに行く先を照らした。

「さ、見つからないうちに、ジャンのところへ行こう」

俺たちを乗せた輸送板が、動き出した。

そうやって俺たちは、いくつかの板を乗り換え、時には外に出て場所を移動し、はしごを上り下り、トンネルの中を歩いて、少しずつジャンたちのいる所へ近づいて行った。

最後の輸送トンネルは、何もかも思い通りにはいかなくて、俺たちは通路に下りて、長い距離を歩かなければいけなかった。

折れそうに細いはしごを登り、手の平は錆びた金属のにおいがして、すっかりごわついている。

「多分この辺りでいいはずなんだけど」

レオンがつぶやく。

見上げた壁には、確かにどこかの搬送口のようなかっこうの扉が見える。

だけど、輸送台に乗っていない俺たちには、その扉はこじ開けるには高すぎて手が届かない。

本来なら、ここからこの板が上昇して、搬入口まで上がる構造だ。

「どうするのよ」

「キャンビー」

俺は自分のキャンビーを呼び寄せると、扉の周囲を調べさせた。

そこはツルリとした段違いの三枚扉構造で、大型の搬入物の多い競技場ならではの大きな扉だった。

「どうやって開けるのよ」

カズコがその場にしゃがみ込み、レオンがため息をつく。

「最後の最後で、出られなくなったな」

内側から開けられるようなボタンもハンドルも、バールを引っかけるような隙間も見つからなかった。

「これ、案外押せば簡単に開くんじゃない?」

古い記憶が蘇る。

俺たちはあの通気口で、ドームの裏側で、このスクールは、つねに多彩な秘密基地を提供してくれていた。

俺たちの隠れ家は、いつだって俺たちを守ってくれていたはずだ。

キャンビーを扉にぶつける。

それはからくり仕掛けの簡単な動力で、すーっとその口を開いた。

「やった!」

警備ロボの上に乗っかって、背を伸ばせるたけ伸ばして、レオンが搬入口によじ登った。

俺はカズコを肩車して立ち上がる。

「重っもい!」

「だからロボットの上でいいって言ったじゃない!」

レオンが彼女の手を引いて、肩の上に立ち上がる。

そのまま引き上げられたカズコは、ぷりぷりに怒っていた。

「そんな怒んなよ、せっかくここまで来たのに」

俺も警備ロボを踏み台にしてよじ登る。

彼女がこんなに怒った顔を見るのも、そういえば子どもの時以来のような気がする。

「ここ、どこだろ?」

どこかのバックヤードらしき部屋だった。

部屋の中には、梱包された大型の荷物が乱立している。

出入り口らしき扉を見つけて、外にでた。

「トレーニングルームの裏だ!」

レオンが叫んだ。

「やったぞ!」

手を取り合って喜ぶ。

俺たちは、整然と並んだマシンの間を駆け抜けた。

「ジャンとニールの所へ行こう!」

誰もいない廊下を駆け抜け、大競技場への入り口へ向かう。

「ジャン! ニール!」

駆け上がった階段は、観客席の二階だった。

目の前に、緑が広がるトラック。

そこに、数十人の人間が集まっていた。

「おまえら!」

階段を一気に駆け下り、仲間の輪に飛び込んだ。

ジャンの手が、俺の肩を強く叩く。

「よく来たな!」

「『よく来たな』じゃねーよ」

俺は他のメンバーから歓迎されなからも、言いたいことを言っておく。

「全く、気に入らないことがあると、すぐに立てこもろうとするのは、悪いくせだぞ」

ジャンは、にやりと笑った。

「まぁ、退屈しのぎにちょうどいいだろ?」

「ガキの頃みたいだ」

「まぁ、その続きみたいなもんだろ」

彼は笑った。

振り返ると、ニールはスクールの警備ロボたちをたくさん集めて、その中身を改造しているようだった。

「あいつもやりたい放題だな」

「いま話しかけると、邪魔すんなって絶対怒りだすから、やめとけよ」

ジャンも昔と変わらない、いたずらな笑顔を浮かべる。

ニールは何を考えて、何をやっているんだろうか。

その具体的な詳細は分からなくても、何をしようとしているのかは分かる。

「で、これからどうするんだよ」

「それを考えるのが、お前の役目だろ?」

ジャンがいつものように、にやりと笑った。

「そのために、来たんじゃなかったのか?」

俺はふーっと、ため息をつく。

そう、全くその通りだ。

バカバカしい、くだらない、なんて思いながらも、完璧に見透かされてる。

俺が俺でいられるのは、この仲間とこの場所があってこそ、だ。

じゃないと、何をしていいのかも、何を考えていいのかも分からない。

これは、習性みたいなもんだ。わくわくしている自分が楽しい。

少し離れた所に座って、全体を見渡す。

今ここに残されている施設の性能とロボットの数、動く人間の数と……。

「ヘラルド!」

ひょっこりと顔を現したのは、ルーシーだった。

「ルーシー! 驚いただろ? 平気だった?」

彼女は恥ずかしそうにして、くすっと笑った。

「大丈夫、みんな、優しい」

彼女は、俺のすぐ隣に腰を下ろす。

「そうか、君が怖がってないんだったら、よかったんだけど」

ルーシーは嬉しそうに、首を横に振った。

「ずっとこのスクールで、生まれた時から一緒に育ってきた仲間なんだ。誰が何を考えて、どうしようとしているのかなんて、言われなくても分かるんだよ」

ルーシーは、にこにこと座っている。

「だから、本当はみんな、君が来てくれて、うれしかったんだ」

俺は、なんの話をしているんだろう。

自分でも意味が分からなくて、恥ずかしさに赤くなる。

「大丈夫、本部から来たあの人たちだって、同じような環境で育ってきた仲間なんだ。誰かを傷つけようだなんて、そんなことを思ってるわけじゃない」

ルーシーがうなずく。

「だから、安心してて」

彼女の手が伸びて、俺の手をつかんだ。

肌から伝わるその触感に、びっくりする。

ルーシーはにっこりと微笑んだ。

俺はその手をどうしていいのか分からなくて、そのまま1ミリも動かさないように、細心の注意を払う。

彼女は体温を持ったその手を、そっと放した。

「大人しーく、そこから出てきなさぁーい」

突然、ディーノの声が競技場に響く。