「ヘラルド!」

その俺の目の前に現れたのは、カズコとレオンだった。

「どうした、なにやってんだお前。迷ったのか?」

「探してたのよ」

カズコもそんなことを言う。

「……、あぁ、俺も、お前らを探してたんだ」

2人の前には、スクールの警備ロボがいた。

「一緒に、避難するか?」

レオンのその声に、俺は自分をつかんでいる機動ロボを見上げた。

「降ろして、みんなと一緒に、避難する」

機動ロボの内部で、何かがチカチカと光っていた。

それと呼応するように、警備ロボの表示ランプも点滅する。

「すみやかに避難してください」

ゆっくりとアームが動いて、俺は丁寧に床に降ろされた。

「ありがとう」

そう言うと、機動ロボは通常移動型に体を変形させた。

そのままゆっくりと、巡回警備に戻る。

俺は、レオンに顔を向けた。

「どうやってやったんだ?」

「ふん、チートツールってのはな、こういう時に使うんだよ」

警備ロボの後ろには、有線のコントローラが繋がっていて、操作をしていたのはレオンだった。

「これで、ジャンのところまで行けるのか?」

「そんなところまで行こうとは、思ってないね」

カズコまでにやりと笑う。

俺たちは、ゆっくりと歩き出した。

薄暗い廊下を、警備ロボの灯りを頼りに進んで行く。

「どこにいくつもりだ」

「ジャンたちがルーシーを使って、スクールの全機能を停止させてしまったんだ」

「どういうこと?」

「管理ルームが完全に機能停止している。全てを手動で操作しないといけない状態なんだ」

俺たちは、暗い廊下を歩いていく。

見慣れた場所だから恐怖は感じないが、灯りがないというだけで、建物の中はこんなに暗くなるんだな。

頭で考えるのと、リアルに体験するのとでは、脳に刻まれる記憶の深度が違う。

「それでも、電源だけは確保されていて、中のロボットたちも動けるし、まぁ、乗り込んできたキャンプベースの大人たちにとっても、そこはお互いに譲れないところだよね」

扉の前に立った。

レオンの説明の通り、いつもなら自動で開く扉が開かない。

彼は警備ロボのコントローラをカズコに渡すと、ロボットの側面から小さなバールのようなものをとりだした。

それを、両開きの扉と扉の間にあるわずかな隙間に引っかける。

彼が力を込めてバールを傾けると、そこにわずかな隙間が出来た。

カズコが有線の警備ロボを操作する。

その隙間にアームを差し込むと、彼らは物理的な力業で扉をこじ開けた。

「こうやって全部の扉を通って来たの?」

「そうよ、これだからアナログって嫌いよ」

リードで繋がれた犬を連れて歩くように、カズコは部屋に入っていった。

そこは、屋内プールの管理ルームだった。

「なんで、ここ?」

レオンの説明にあった通り、すでにネットワークは切断され、管理設備は一切作動していない。

「ジャンたちは、最上階の競技場に陣取ってるわ」

「まぁ、あそこは元々、エリートアスリート種のたまり場みたいなもんだったから」

同じアスリート種の奴らが集まって、さかんにスポーツが行われていた。

「そう、彼らの作るサークルのブースには、何でもあったのよ」

そう言われれば、確かにそうだ。

ロッカールームにシャワールーム、簡単な治療が受けられる保健室に、マッサージルームまである。

「そして、栄養管理のための食堂もね」

「籠城するつもりなのかな?」

「たぶんね」

俺がカズコと話している間、レオンはずっと部屋の中で何かを探していた。

「それにはもちろん、キャンプベースの人たちも気づいたの。屋根の上からドローンを飛ばして、物資を調達することも可能だった」

「それで屋根が閉められたのか」

「ドームの屋根に登ったの?」

「昔を思い出したんだ」

レオンは笑って、カズコは呆れた顔をした。

「あはは、懐かしいな!」

「ホント懲りないわね、あなたたちって」

「だけど、それなら継続した籠城は難しくなった」

「そうね、そして水道設備も止められたわ」

「じゃあ、一日ももたないじゃないか」

「サークルルームや、食堂に残っている備蓄量を考慮しても、それほど長くはないでしょうね」

レオンが、何かを見つけてその扉を開けた。

「あった!」

「だから、私たちはその止められた輸送経路を通って、競技場まで行くの」

レオンは手にしたバールで、床板をはがした。

そこには、構内に張り巡らされた内部流通トンネルの一部があった。

「これに乗って行けば、競技場までいけるはずよ」

「だけど、どうやって?」

レオンは、警備ロボを輸送板のハンドルに繋ぐ。

「ここの動力も停止させられているの、本当は外から侵入すれば、もっといろいろ持ち込めたのかもしれないけどね」

「そうよ、いきなりスクールに駆け込んでいくなんて、いくらなんでも頭悪すぎ。ヘラルドも、もうちょっと考えなさいよ」

カズコはツンとすました目で、いたずらに俺を見上げる。

「こういうことを学ぶために、私たちはスクールに通っているのよ」

「あぁ、それはどうも、すみませんでしたね」

足元の搬送台が、ぐらりと動いた。

「で、どうするんだよ」