どの経路からの緊急警報によって駆けつけたのか、間もなくスクールを管轄する成人のチームが現れた。

複数の機動隊ロボが、スクールの施設周辺を取り囲む。

内部のシステムは多くが破壊されていて、外部からの遠隔操作もできず、定点カメラの操作も出来なくなっていた。

ジャンの仲間たちだけが、残された一部のシステムを操作している。

「個人で警報を送って来たのは、お前か」

ディーノは、俺に向かってそう言った。

黙ってうなずく。

イヴァは誰かと連絡を取り合っていて、ヴォウェンの姿は見えなかった。

「そうか、ありがとな。後は俺たちで処理するから、お前はもう帰っていいぞ」

彼がそう言うと、付き従う2体のヒューマノイド型の機動ロボが、変形を始める。

蜘蛛のような形に変化したそれらは、もの凄いスピードで廊下を走り去って行った。

俺たちに、関わるなということだ。

「あたしも行くわよ」

イヴァが追いかけて来て、ディーノの横に並ぶ。

「私のルーシーに何かあったら、許さないんだからね」

スクールの中では、避難誘導が始まっていた。

中にいた人間たちは、次々と外に追いやられている。

「あなたも早く、避難しなさい」

彼女の声を合図に、恐ろしく高性能の機動ロボが、俺と彼らの間に立ちふさがった。

「すぐにここから、退避してください」

その機械の声に、俺は足を止める。

この先は、俺の関わっていい場面ではない。

それぞれのシチュエーションによって、それぞれの役割というものがあって、いま俺に出来ることは何もない。

ディーノとイヴァの背中はやがて小さくなり、廊下の角に消えた。

「すぐにここから、退避してください」

この機動ロボに、俺が何かを訴えても、このセリフ以上の返答はなく、そこを無理矢理突破することは不可能だった。

俺は、機械のように体を反転させた。

カズコたちの言う通りだった。

俺に出来ることは何もない。

俺よりもずっと優秀でずっと経験豊富な、専門の人間に任せておけばそれでいいんだ。

俺はジャンにはかなわないし、ジャンやニールにしたって、俺相手じゃ素直に話を聞いてくれるとも思えない。

たとえルーシーを彼らから助け出したとして、そのあとのことはどうすればいいんだろう。

ジャンに謝る? それもおかしな話だ。

スクールに居つづけるためには、彼らとの摩擦を避けなければいけない。

だとすれば、スクールを管轄する彼らに任せるのが、やっぱり最適なんだ。

ルーシーは、必ず助けられるだろう。

あの人たちは、そういう人たちだ。

スクールの外に出た。

相変わらず曇の多い空を見上げる。

立ち止まった俺を、同じ場所から出てきた奴らが、次々と追い越していく。

さぁ、俺も、大人しく自分の定位置に戻ろう。

歩き始めた俺の前に、カズコとレオンの姿が見えた。

「おかえり、ヘラルド」

カズコはそう言った。

「スクールの課題は、自宅のパソコンから接続が可能になるそうよ」

レオンも静かに微笑む。

「わざわざ集められる口実がなくなって、ある意味ラクになったな」

彼の手がポンと俺の肩に乗って、俺たちは歩き出した。

「どっか、飯でも一緒に食って帰ろうぜ」

爆音と共に、スクールの一部から黒煙が上がった。

その煙はすぐに白煙に変わり、やがて消えていく。

スクールの消火機能は、ちゃんと動いている。

あの中で、あの小さな警備ロボットたちは、一生懸命動いているのだろう。

それらを全部動かしているのは、キャンプベースから来たあの3人だ。

俺の足が、オートマチックにスクールへ向かった。

「ヘラルド! ダメよ!」

カズコが叫ぶ。

俺は入り口の重い扉を体でこじ開けると、中へ入った。

スクール内部の灯りは、全て消えていた。

電気系統が独立している非常灯だけが、辺りを照らしている。

「キャンビー、ライト!」

俺の走る廊下の先が照らされた。

ジャンたちは、最上階へ向かったはずだ。

そこへ行く抜け道は、必ずどこかにあるはず。

俺は記憶の片隅を探っていた。

俺がここに来た時は、まだ5歳程度の子どもだった。

保育ルームで一緒に育った俺たちは、ここの内部の状態なら、誰よりもよく知っている。

俺はスクールの幼児ルームに向かった。

やっぱり、だ。

小さな子供たちはすでに退避して無人だったが、施設の内部はどこも無傷な状態だった。

壁際のスイッチに手を当てる。

手動で灯りが点灯した。