ロボットから伸びた巨大なアームが、俺の腰を覆った。

別のロボたちは、ニールとレオンに向かう。

レオンはニールをかばって、その前に立ちふさがった。

「監視カメラによる情報解析の結果、ヘラルドは無関係と判断されました」

腰のベルトがほどかれた。

「レオン、一旦ニールのそばから離れるんだ!」

大人しく判定を受ければいい、そうすれば、レオンはすぐに釈放される。

ニールは、更正プログラムを受ければ、また元通りだ。

「誰が大人しく捕まるもんかよ、もうこんな、機械に判定される毎日はこりごりだ」

ニールは、隠し持っていた強制終了棒を取りだした。

レオンの背中を押しのける。

警棒がロボットに向かって振り下ろされた。

「大人しくしてろ、そうすれば、すぐに済む話じゃないか!」

警棒をサッとよけたロボットに、レオンは自ら体をぶつけていく。

危険を察知したロボットは、レオンとの衝突を回避するため、動作を緊急停止させた。

別のロボットが、レオンの体を背中から包み込む。

内側にクッションが施された安全拘束帯が、彼の動きを封じる。

そのロボットに向かって、ニールは警棒を振りかざした。ジャンが飛び込んで来る。

「やめろ!」

間に合わない。

レオンの体ごと打ち付けられた警棒は、強力な電流を発した。ジャンは、ニールの警棒をたたき落とす。

「落ち着け」

その一瞬の隙をついて、ロボットアームがニールに伸びた。

ニールが捕まる! 

そう思った瞬間、そこに、ルーシーが飛び込んだ。

両腕を大きく広げ、彼を守ろうとしたルーシーに、ニールを捕らえようとしていたロボットはガクンと体を震わせ、動きを止める。

「とにかく、一旦落ち着け!」

ジャンの恫喝に、その場にいた人間の全員が大人しくなる。

ジャンは部屋の様子を見渡した。

「ニール!」

「キャンプベースの中央管理システムが、俺たちのプログラムに干渉してきて……」

警備ロボがニールを取り押さえた。

応援に駆けつけた他のロボたちが、室内を埋め尽くす。

こうなると、もうジャンがいくら警棒を振りかざして暴れようとも、どうすることも出来ない。

ニールはそのまま捕らえられ、連行されていった。

怪我をしたレオンを確保したまま、機能を停止していたロボットは、別の保安警備ロボによって、アームを解除される。

レオンは救護ロボによって助け起こされると、そのまま半強制的に車いすに追いやられ、運ばれていった。

このロボットたちの動きは、中央のキャンプベースによってプログラムされた管理態勢であり、それに逆らうことは許されない。

こうやって画一的に治安を保つことが、人間の感情や腐敗、偏見などの偏りを排した、ここでの『原則』なんだ。

感情ではなく徹底したルールの適用を厳格かつ公平に。

それが、俺たちが隕石衝突後の世界で作り上げた、新しい世界のルールだ。

ジャンは、ニールを詰め込んだ搬送車を見送った。

「何が俺たちをこうさせたんだ、なにが悪い?」

自分の思い通りにならないことは、確かに『悪い』ことかもしれない。

だけど、その『思い通り』の向く矛先を、間違ってはいけない。

それがこのロボットたちの、新しい俺たちのこの世界の、人工知能にプログラミングされた行動原則だ。

「ジャン!」

彼は部屋を出て行った。

彼の怒りは、プログラミングされたロボットたちにとって、何らかの影響を与える判定材料とはなり得ない。

カズコは、震えているルーシーを抱きしめた。

彼女は、声を抑えて泣いていた。

そんな彼女を、カズコはじっとのぞき込む。

「どうしたのルーシー、何を泣いているの?」

カズコがそう優しく声をかけても、彼女は反応を返さない。

「ルーシー、こんなことに、君はわざわざ涙を流す必要はない。レオンの無罪は間違いなく判定されるだろうし、ニールには新たな行動選択のための、価値基準が必要なだけだ」

それを更正と呼び、ニールはこれを学ばなければならない。

「ニールに必要なのは、学習だ」

彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、激しく横に振った。

「正しさは証明され、不正は修正される。間違いは直さなくてはいけないし、直れば元通りだ」

俺たちがそう何度説明しても、それでもルーシーは泣き止むことはなかった。

俺はカズコと目を合わせ、ため息をこぼす。

彼女にはそれが理解出来ない。

これ以上に上手い説明の仕方が、俺には分からなかった。