ニールの機体が相手機の間を縫うように、高速でフィールドを駆け抜ける。

ゴールエリアに向かった彼を追いかけるように、ボールを持ったレオンはカズコの子機にパスを回しながら、ニールの切り開いた道を進んだ。

俺は頭の中で、自分の位置とルーシーの位置を把握、計算しながら、相手機の進路を妨害する。

ルーシーの機体が、相手機と接触した。

シンクロ率を80%に下げ、こちらの衝撃を軽減する。

「ルーシー! 機体のバランスはこっちに任せて、相手機からの体当たり攻撃は避けて!」

彼女は、操縦桿を握り直した。

レオンからのパスボールを、ニールが受け取る。

そのまま、ルーシーが盾になっている軌道を、ニールは駆け抜けようとしていた。

相手機の動きが、そこへ集中する。

シンクロ率80%のままで、俺が彼女の機体を動かした、その時だった。

一瞬、上昇したかと思われた機体は、ガクンと傾き、再び失速を始めた。

急に下降し始めた機体は、再度ニールと激しく衝突する。

機体の一部が破壊され、コントロールを失った彼のアームから、ボールがこぼれ落ちた。

相手チームに、ゴールを決められる。

試合終了のホイッスルが鳴った。

完敗だ。

「ルーシー!」

フィールドに不時着した彼女に、ニールが詰めよる。

「どういう運転の仕方してんだよ!」

すっかり怯えたような目で、彼女はニールを見上げ縮こまる。

「やめろニール! ルーシーは初めての試合じゃないか」

機体から降りたレオンが、駆け寄った。

ニールはルーシーに対して、ずっと何かをわめき倒しているが、その一割も彼女には理解できていないだろう。

「ほら、落ち着けって!」

肩に置かれたレオンの手を、ニールは振り払った。

「ニール! ルーシーに文句を言うのは間違ってる、彼女の機体を操縦していたのは、ヘラルドだ」

俺とカズコも、すぐに駆け寄った。

「急にルーシーの機体が失速したんだ、コントロール不能だよ、練習の時と同じ現象だ。プログラムや機体の整備に、問題はなかったんだろ?」

「お前は、俺が悪いって言ってんのか!」

ニールの矛先が、俺に向かう。

「違う、俺は怒ってるんじゃない、質問しているんだ。機体制御のプログラムや、整備に問題はなかったんだろ?」

彼はヘッドホンを、地面に叩きつけた。

「じゃあどうしていきなりルーシーの機体がおかしくなるんだよ、お前がちゃんと2機分操縦するって宣言したんだぞ!」

「あぁ、当然じゃないか、俺はそう言ったよ。だけど、それが上手くいかなかったんだ」

「それがおかしいって言ってんだ!」

警告音がなった。

試合が終了したら、速やかにフィールドから退却しなければならない。

ニールとルーシーの機体は、接触の衝撃から、自走が困難になっていた。

「あーあ、長年連れ添った俺の機体が……」

回収ロボによって、拾い集められた部品と共に、俺たちはフィールドの外に出される。

すぐに次の試合が始まった。

トーナメント形式の今回の試合で、俺たちの出番はもうない。

「ヘラルド! ルーシーのコントロールが効かなくなったって、どういことだよ」

「だから、何度もそう言ってるじゃないか」

「俺のプログラムにも、機体整備にも問題は絶対にない!」

「だけど、コントロール不能になったのは事実だ」

「それがおかしいって言ってんだろ!」

俺はつい、ため息をもらす。

こうなったら、しばらくニールの興奮状態は続く。

「ニール、俺たちはよく頑張った。努力もしたさ、それが結果に繋がらなかったのは残念だったけど、いつでもハプニングというものはつきもので……」

「俺はそんな言い分けを聞きたいんじゃない!」

「5人チームでの出場が難しいのは、分かってたじゃないか、だったらどうして、3対3の試合に出なかったんだ? それなら十分、勝算はあっただろ」

ニールは、ふっと意地の悪い笑みを浮かべた。

「やっぱり、お前もルーシーが邪魔だと思ってたんじゃないか」

ここで彼の口車に乗ってはいけない。

それは分かっている。

だけど、俺自身の感情をコントロールすることも、この状況下では難しい。

「そんなこと、いつ俺が言った?」

俺は努めて冷静に、抑揚のない話し方をする。

「最初っから無理なんだったら、無理って言えばよかっただろ、2機分の操縦は難しいって! だっから、ルーシーのプログラムを、最初っから自走式にすればよかったんだ」

「お前が勝手に決めたんだろ、俺にやれって!」

「ちゃんと出来るって、言ったじゃないか!」

俺は、次の言葉を飲み込む。

確かにそう言った。

確かにそうは言ったが、機体が勝手に失速したんだ。

それは、誰が作ったプログラムのせいだ?

「出来ないなら、素直に言えって、『俺は出来ませんでした』って」

「もういいじゃない、二人とも。早く帰りましょ。終わった話よ」

カズコは、ルーシーの肩を抱き寄せながらそう言った。

そうだ、彼女のことを忘れていた。

カズコは、怯えたような彼女をつれて出て行く。

「だけどさ、ヘラルドの言う通りだよ、機体に問題はなかったのに、何かがおかしいって。ちゃんと調べた方がいいかも」

レオンが彼女の機体を振り返った。

「スクールに置いてある、誰でも使える初心者用ノーマルタイプの練習機に、なにがあるってんだ」

ニールは、彼女の機体を蹴飛ばした。

「俺は! ちゃんと出来るように色々と考えてやってたんだよ!」

「そうだよ、ニールはちゃんと考えてた」

こういう時、俺が口をはさむより、レオンの方が上手くやれる。

「だから、ちゃんと練習通りにやれてればよかったんだよな、そうだよね、ヘラルド」

俺は、その問いかけにはあえて答えなかったし、答える必要もないと思った。

そもそも、怒りの矛先が俺に向いている以上、当事者である俺はあまり出て行かないほうがいい。

「もっと、細かい調整が出来てればよかったよな」

レオンは、何度も小さくうなずいて、彼をなぐさめる。

「なにが悪かった?」

「時間が足りなかった、練習時間が」

レオンはニールの肩に手を置くと、彼の破壊された機体のところへ無理矢理連れて行った。

ニールはまだ怒っていたけど、自分の機体の修理を始めている。

俺はため息をついた。

胸の鼓動が早い、心拍数が上がっている。

俺は今、興奮しているんだ。

落ち着こうと考え直して、自分の機体に入れられたニールのミラープログラムをチェックする。

だけど、画面に並んだ無数の文字列を、俺は集中して見ているようで見えていなかった。

こんなんだから、俺が、チームが、仲間が。

だから成人出来るかどうか、俺は不安になるんだ。

こいつらとは、絶対に同じになんか、されたくない。

試合終了のホイッスルが鳴る。

いつの間にか決勝戦まで進んでいた試合は、華々しい最後を迎えていた。

両チームの選手が互いに固い握手をして、健闘をたたえ合い別れる。

優勝したチームは、とても大人びて、仲がよさそうに見えた。

「惜しかったな」

ニールのプログラムをチェックするフリをして、ただ画面に流していたら、ジャンがやってきた。

「これだけの短い時間で、よく準備できたな、試合に出れただけでもすごいじゃないか」

「だけど、それじゃダメなんだ」

悪いのは俺じゃない。

俺はちゃんと操縦してた。

失速には、何らかの原因があるはずだし、そもそも、ルーシーがいると分かって、無理矢理試合にエントリーして俺たちを巻き込む方が間違ってる。

ジャンは、俺の隣にしゃがみ込んだ。

「あはは、お前らまた喧嘩してすねてんのか」

「すねてないよ」

ジャンは笑う。

俺はそのせいで、また気分を悪くする。

「仲良くやれよ、チームなんだ。俺は今でもこのチームから抜かれた意味を、時々考えるよ」

俺はそうは思わない。

正直、ジャンの特異なリーダーシップに、ついていこうとする人間の気持ちが分からない。

きっとキャンプベースの中央管理システムは、彼のそんな欠点を、どこかで修正させようとしているんだろう。

彼自身が、それに気がつかないだけで。

ジャンが立ち上がった。

「あいつらの所にも行ってくる」

彼は、言い争いを始めたニールとレオンの元へ向かった。

ジャンと一緒にいた頃は、何も考えなくてよかった。

めんどうなことやもめ事も、全部ジャンが解決してくれたし、彼の言うことに従っていればよかった。

楽だった。

ジャンは、俺のところに来た時と同じように、笑いながらニールとレオンの間に割って入る。

がはがは笑いながら、あっという間に仲裁してしまった。

二人は、ジャンに何か機体の整備の説明をしている。

だからダメなんだ。

俺は、あんな風にはなれない。

流していただけのプログラム画面を閉じ、俺もフィールドを後にした。