ニールが秘密特訓とかで事前予約を入れておいたらしく、広大な競技場には、俺たち5人の他に誰もいなかった。
スクール構内の、いたるところに張り巡らされた搬送用トンネルから、チームの使用するロボットが運ばれてくる。
それぞれの特性に合わせてカスタマイズされた、自慢のライド型ロボットだ。
俺は自分のロボットの機体に、そっと手を添えた。
「あぁ、でもやっぱり、試合となるとワクワクしてくるよね」
「ルーシーのはこっちだ」
彼女のために用意されていたのは、初心者向けボックスタイプのロボットだった。
スクールの内部から貸し出しを受けたらしい。
ボックスの扉を開けると、一人乗り用の席があり、モニター画面と操縦用のハンドルがある。
彼女専用にカスタマイズしたものを、注文、製造するには、時間が間に合わないし、自分好みのロボットを作り上げるのは、今後の彼女自身の、楽しみでもあるはずだ。
ニールはルーシーのキャンビーを、ライドロボに繋いだ。
ルーシーは、実際のフィールドと、自分のために用意されたロボットを見て、ようやく事態を理解したらしい。
彼女はニールに出入り口の扉を開けてもらい、喜々としてそこに乗り込んだ。
「とりあえず、最初はプロモーション運転ね」
ルーシーが、シートベルトを装着した瞬間だった。
彼女を乗せたライドロボは、フィールドを一直線に舞い上がった。
「きゃあぁぁぁっっっ!」
ルーシーの悲鳴が空から響く。
全自動のジェットコースターのように、彼女を乗せた機体は高速で空中を駆け抜ける。
「ニール、いきなりやりすぎ」
泣き叫ぶルーシーを見て笑い転げるニールに、カズコは言った。
「あれで怖がって、もう乗らないって言われたら、どうするのよ」
「それでも乗ってもらうよ」
本来の操縦桿は、もはや彼女が機体から振り落とされないように、握りしめる手すりでしかなくなっている。
「ルーシー! モニター画面を見るんだ! その画面の指示通りに、手を動かしてみろ!」
「習うより慣れろなんてやり方は、彼女には合わないんじゃないの?」
ニールの隣で、俺は自分のロボットにまたがった。
機動スイッチを入れ、そこに操縦をサポートするキャンビーを繋ぐ。
「キャンビー、ルーシーの機体画面を、モニターに出して」
エンジンがかかる。
機体が軽く振動し、やがてそれも静かになる。
俺は息を取り戻した機体の、操縦桿を握った。
「発進!」
浮かび上がった俺の体に、心地よい重力の圧がかかる。
ニールの作ったプログラムに従って、空中をふらふらと飛び続ける、ルーシーの横に並んだ。
「ルーシー落ち着いて、聞こえる?」
自分の機体を彼女の機体に押しつけ、ゆっくりと横に流す。
「画面を見て、そこに写っているのと同じ操作をするんだ。いま君が乗っているそのロボットは、そういう操作をすると、そういう動きをするんだ」
彼女は、操縦桿を握り直した。
「少し、スピードを落とそう」
俺は自分の機体から、彼女の機体を操作する。
ニールが設定していた速度を、半分にまで落とした。
「これで、少しは落ち着いて画面が見られるだろ?」
彼女は操縦席でうなずく。
「大丈夫、今はニールのプログラム通りに動いていて、絶対に落下することはないから。とりあえず、そのガイドと同じように動かして」
俺は彼女の機体から離れる。
再びプログラム通りに動き出した機体に合わせて、彼女も操縦桿を操作する。
機体の動きと、彼女の操縦操作とのシンクロ率が、ようやくモニター画面に表示された。
「そうそう、上手だよルーシー」
俺はルーシーのモニター画面を見ながら、ゆっくりと彼女の機体を追尾する。
そうやってしばらく練習を続けていると、必死の形相で運転していた彼女の顔にも、こちらを振り返って、ふと微笑む程度の余裕が出てきた。
「少し、休憩しようか」
そう言うと、彼女はうなずいた。
自分の機体と彼女の機体を連動させ、ゆっくりとフィールドに降り立つ。
機体から降りたルーシーは、満足そうな顔でほっと息を吐き出した。
「どうやらニールは、ルーシーから嫌われずにすんだようね」
カズコが笑った。
「作戦のプログラムと操縦訓練の内容は、ルーシーのキャンビーに入れてあるから。じゃあ後は頼んだぞ、ヘラルド!」
そう言うと、ニールとレオンは飛び立っていってしまった。
さっそく激しい空中戦を繰り広げる彼らを見上げ、ため息をつく。
「さて、どうするかな」
先ほどのデータを見ても、機体と操縦の平均シンクロ率は28.2%。
お世辞にも、良い成績とは言えない。
「とりあえず、自分で操縦しても、墜落しないようにするしかないわよ」
カズコはルーシーの機体に乗り込むと、画面を操作し、ニールの製作したプログラムから、より一般的な初心者用操縦プログラムに切り替えた。
「まずは空中でバランスをとって、安定して浮かべるようになってからね」
俺とカズコによる、ルーシーの特訓が始まった。
スクール構内の、いたるところに張り巡らされた搬送用トンネルから、チームの使用するロボットが運ばれてくる。
それぞれの特性に合わせてカスタマイズされた、自慢のライド型ロボットだ。
俺は自分のロボットの機体に、そっと手を添えた。
「あぁ、でもやっぱり、試合となるとワクワクしてくるよね」
「ルーシーのはこっちだ」
彼女のために用意されていたのは、初心者向けボックスタイプのロボットだった。
スクールの内部から貸し出しを受けたらしい。
ボックスの扉を開けると、一人乗り用の席があり、モニター画面と操縦用のハンドルがある。
彼女専用にカスタマイズしたものを、注文、製造するには、時間が間に合わないし、自分好みのロボットを作り上げるのは、今後の彼女自身の、楽しみでもあるはずだ。
ニールはルーシーのキャンビーを、ライドロボに繋いだ。
ルーシーは、実際のフィールドと、自分のために用意されたロボットを見て、ようやく事態を理解したらしい。
彼女はニールに出入り口の扉を開けてもらい、喜々としてそこに乗り込んだ。
「とりあえず、最初はプロモーション運転ね」
ルーシーが、シートベルトを装着した瞬間だった。
彼女を乗せたライドロボは、フィールドを一直線に舞い上がった。
「きゃあぁぁぁっっっ!」
ルーシーの悲鳴が空から響く。
全自動のジェットコースターのように、彼女を乗せた機体は高速で空中を駆け抜ける。
「ニール、いきなりやりすぎ」
泣き叫ぶルーシーを見て笑い転げるニールに、カズコは言った。
「あれで怖がって、もう乗らないって言われたら、どうするのよ」
「それでも乗ってもらうよ」
本来の操縦桿は、もはや彼女が機体から振り落とされないように、握りしめる手すりでしかなくなっている。
「ルーシー! モニター画面を見るんだ! その画面の指示通りに、手を動かしてみろ!」
「習うより慣れろなんてやり方は、彼女には合わないんじゃないの?」
ニールの隣で、俺は自分のロボットにまたがった。
機動スイッチを入れ、そこに操縦をサポートするキャンビーを繋ぐ。
「キャンビー、ルーシーの機体画面を、モニターに出して」
エンジンがかかる。
機体が軽く振動し、やがてそれも静かになる。
俺は息を取り戻した機体の、操縦桿を握った。
「発進!」
浮かび上がった俺の体に、心地よい重力の圧がかかる。
ニールの作ったプログラムに従って、空中をふらふらと飛び続ける、ルーシーの横に並んだ。
「ルーシー落ち着いて、聞こえる?」
自分の機体を彼女の機体に押しつけ、ゆっくりと横に流す。
「画面を見て、そこに写っているのと同じ操作をするんだ。いま君が乗っているそのロボットは、そういう操作をすると、そういう動きをするんだ」
彼女は、操縦桿を握り直した。
「少し、スピードを落とそう」
俺は自分の機体から、彼女の機体を操作する。
ニールが設定していた速度を、半分にまで落とした。
「これで、少しは落ち着いて画面が見られるだろ?」
彼女は操縦席でうなずく。
「大丈夫、今はニールのプログラム通りに動いていて、絶対に落下することはないから。とりあえず、そのガイドと同じように動かして」
俺は彼女の機体から離れる。
再びプログラム通りに動き出した機体に合わせて、彼女も操縦桿を操作する。
機体の動きと、彼女の操縦操作とのシンクロ率が、ようやくモニター画面に表示された。
「そうそう、上手だよルーシー」
俺はルーシーのモニター画面を見ながら、ゆっくりと彼女の機体を追尾する。
そうやってしばらく練習を続けていると、必死の形相で運転していた彼女の顔にも、こちらを振り返って、ふと微笑む程度の余裕が出てきた。
「少し、休憩しようか」
そう言うと、彼女はうなずいた。
自分の機体と彼女の機体を連動させ、ゆっくりとフィールドに降り立つ。
機体から降りたルーシーは、満足そうな顔でほっと息を吐き出した。
「どうやらニールは、ルーシーから嫌われずにすんだようね」
カズコが笑った。
「作戦のプログラムと操縦訓練の内容は、ルーシーのキャンビーに入れてあるから。じゃあ後は頼んだぞ、ヘラルド!」
そう言うと、ニールとレオンは飛び立っていってしまった。
さっそく激しい空中戦を繰り広げる彼らを見上げ、ため息をつく。
「さて、どうするかな」
先ほどのデータを見ても、機体と操縦の平均シンクロ率は28.2%。
お世辞にも、良い成績とは言えない。
「とりあえず、自分で操縦しても、墜落しないようにするしかないわよ」
カズコはルーシーの機体に乗り込むと、画面を操作し、ニールの製作したプログラムから、より一般的な初心者用操縦プログラムに切り替えた。
「まずは空中でバランスをとって、安定して浮かべるようになってからね」
俺とカズコによる、ルーシーの特訓が始まった。